現金受取などの問題で大臣を辞任した甘利明・前経済再生相。作家・室井佑月氏は、引責辞任でうやむやになりつつあるこの問題についてこう憤る。

*  *  *
 
 もう一度、あの方に説明とやらをしてもらいたいわ。総理も「きちんと説明させる」っていってるんだし。

 民主党が、甘利前大臣の秘書と建設会社担当者の面会の音声データを公開した。

 甘利さんの秘書が、告発者・建設会社の一色さんに、

「推定20億かかりますとか、言葉にしてほしい」

 とURに補償の具体額を提示するよう促している。甘利さんの、補償交渉に甘利事務所は関与していないとの説明は、嘘だったことになる。

 音声データには、秘書が建設会社に、高級車レクサスをおねだりするところもあったりして。

 てか、あの方は会見で、元特捜の弁護士になにが起こったかを調べさせるといっていた。そろそろ、調べはついたろう。さあ、出てこいやっ。

 文春のスクープからはじまった、甘利さんの口利きあっせん疑惑。証拠もかなり出てきているのに、甘利さんが大臣を辞めただけで、うやむやになってしまうのだろうか。

 甘利事務所は、建設会社から金をもらい、天下りの多いURに圧力をかけ、URは我々の血税をふんだんに使ったのだから、いってみれば、普通の泥棒よりたちが悪い税金泥棒だ。

 こういうときこそ、メディアはスクラムを組み、巨大な力と戦い、世論や特捜を動かすべきだと思う。国民のために、税金を無駄遣いする輩の撲滅運動をなぜやらない?

 
 清原の覚せい剤逮捕報道は、もういいってーの。もう十分、覚せい剤は怖いって見せしめになった。なにより捕まった本人が、それなりの制裁を受けるだろうし。

 だが、こっちは終わっていない。変な感じではじまって。

 テレビでは甘利さんが辞めた場合の政局の話を中心に流し、ちょっとでもあの方を批判しようものなら、

「あの方はTPPの世界との交渉で、我が国にとって大事な人。瑣末なことで、国益をおろそかにしてはならない」

 という空気さえ流れていた。

 そして、甘利さんは会見で問題をすべて秘書になすりつけ、大臣を辞めた。それをまた、

「潔い」

 なんていう人も出てきた。

 そういう人たちは甘利さんを、「この国のタフネゴシエーター」などと呼んで絶賛していた。そのタフネゴシエーターは、国会に参考人招致されそうになったとたん、睡眠障害で1カ月の自宅療養が必要だってば。

 だいたい、TPPの交渉で、政府が絶対に守るといっていた聖域もズタボロになってきてるじゃん。

 逆に今回の件で、あたしは、

(政治家として潤沢な報酬をもらっている男が、卑怯な口利きあっせんまでして、個人の金を増やそうとした。そんな人が、この国と海外の交渉の窓口になり、国益をなにがあっても守ろうとしたのか? また、彼をかばう輩だって、どうなのか?)

 そう考えてしまうけどな。

週刊朝日 2016年3月11日号

著者プロフィールを見る
室井佑月

室井佑月

室井佑月(むろい・ゆづき)/作家。1970年、青森県生まれ。「小説新潮」誌の「読者による性の小説」に入選し作家デビュー。テレビ・コメンテーターとしても活躍。「しがみつく女」をまとめた「この国は、変われないの?」(新日本出版社)が発売中

室井佑月の記事一覧はこちら