呼びかけ人や賛同者には、12年の自民党総裁選前に設立された「安倍晋三総理大臣を求める民間人有志の会」発起人37人のうち11人が参加していた。高市総務相が「電波停止」発言をした直後の2月13日には、読売新聞に再度意見広告を掲載した。その関連性について視聴者の会は本誌に対し、広告は1月中旬から準備していたと否定。掲載の理由をこう説明する。

「(特定秘密保護法と安保法制で)夜の主要テレビ番組の賛否バランスが8対2、9対1など極端すぎる状況なので、国民の知る権利の侵害だと訴えている」

 同会事務局長の小川榮太郎氏が雑誌「正論」3月号に寄稿した「吉永小百合さんへの手紙」も話題だ。この論考では、安保法制に反対した吉永さんが「しんぶん赤旗」に繰り返し登場していることから、「日本共産党の広告塔」だと指摘。キャスターだけでなく、今後は芸能人の政治的発言も問題視されるのではとの懸念の声もある。

 吉永さんへの批判について小川氏は、「丁寧な議論を展開していると自負している」としたうえで、こう回答した。

「(論考は)会の活動とは全く関係ありません。個々の発言者をターゲットにすることなどありえません」

 政権と民間の双方から強まるテレビ局への批判と圧力。元TBS報道局アナウンサーで、安倍政権初期まで2年余り内閣広報室に勤務した下村健一氏は、「メディアと権力の両側」を経験した立場から言う。

「高市発言は、権力を持つ者の発言としては明らかに不適切だが、文言だけ見れば、当たり前のことしか言っていない。問題は、それを受けたテレビ局側が過剰な自主規制に走ること」

 では、テレビ局の自粛の進行を食い止めるにはどうすればいいのか。

「放送内容が今後、もし政府寄りに偏ったら、まさに放送法第4条の求める政治的公平を、是正を求める根拠として視聴者側が使えます。政権に批判的なことも言えるキャスターやコメンテーターの降板を憂うる視聴者は、『視聴者の会』と同じ論理で、テレビ局に意見表明の圧力をかけていけばいい」(下村氏)

 冒頭に紹介した記事では、もし、英国で厳しい質問をするキャスター3人が同時に職を失えば、「英国の多くの政治家は大喜びするだろう」と書いている。今、日本ではどこかで政治家がほくそ笑んでいるに違いない。

(取材班 今西憲之、本誌・長倉克枝、西岡千史)

週刊朝日 2016年3月4日号