この日、東京に雪が降った。朝方は本降りで23区内も6センチの積雪を記録した。そんな都心の非常事態をまるで日常会話をするように。これが話芸なんだろうな。気持ちがほぐれた。ドジぶりを暴露されたぼくだったが、自分からすんなりと会話の流れに乗れた。

 加齢のせいもあるが、数年前から足がうまく上がらず、転びやすくなったことを説明。物忘れもひどくなった。ダブルブッキングをして2年余り前に大学病院の物忘れ外来に駆け込んだ経緯を話した。

 軽度認知障害(MCI)と診断されてからどんなトレーニングをしたか、外山アナやトモ子さんに問われるまましゃべった。

「ここに持ってきていただいた楽器を演奏したり料理やダンスをしたり、それに絵画、筋トレなど楽しそう。だけど不思議、それがトレーニングになっているのね」

 と、トモ子さん。ぼくはおもむろにプサルテリーをケースから取り出した。「上を向いて歩こう」(中村八大作曲、永六輔作詞)のさわりを弾いた。すると、

「選曲がいいね」

 と永さん、にっこり。喜んでもらえた。音楽が苦手で学校の歌の授業ではいつも口パクだったぼくが演奏するなんて自分でも信じられない。生番組で間違えたらどうしようと思ったが、けっこう平静でいられた。いつものペースで弾いた。永さんから質問された。

「職場にはその病気のことはどう報告したの」

「デイケアには週1回は通わなければならなかった。ありのままを報告した。同じような悩みを持っている人も多いだろう、実体験ルポを連載してはどうかと。ありがたかった」

 初めて永さんの顔を見ながら話すことができた。ぼくがMCIを誌面で告白して連載を始めたのも、もとはといえば永さんがいたからだ。

「パーキンソン病のキーパーソン」などと言って病気を隠そうとしないで放送を続けている姿を思い出したのだ。永さんに背中を押された感じもした。

週刊朝日 2016年2月26日号より抜粋