「かつて社長は全体をみるのにとどめた。現場に任せていた。そのころは担当部長の責任で『隠れ研究』ができ、さまざまな事業が出てきた。それが何でも本社に報告させ、本社が主導し始めた。液晶が成功したことで過剰に投資し、会社自体も踏ん反り返るようになった。だが製品の需要には限界もある。テレビ画面を大型化して鮮やかにしたところで、それ以上はいらないよ、という限界がある。最後には家の壁全体を画面にでもするのかと戸惑った」(前出の技術系OB)とする。

 昨秋実施した早期退職では約3200人が社を去った。それでも現役社員が「バラバラ」に抵抗する理由がわかってきた。シャープは「会社」ではなく、技術を発想して挑戦する「場」だったということだ。今も「らしさ」は残っている。

「今日も頑張ろう」「え?なになにー」

 言葉を交わすのは人間ではなく、隣に並んだ冷蔵庫とオーブン。まるで漫画のようだが、インターネットと家電が融合する「IoT」と人工知能(AI)を組み合わせた最新家電だ。

 1月に訪ねたのは大阪府八尾市の工場敷地内。そこにあった不似合いな戸建て住宅は、商談相手に実際の生活シーンで商品を見てもらおうと建てた家という。技術開発を手がけるクラウドサービス推進センターの阪本実雄所長は言う。

「最新家電のヒントはスマホ。二人が同じスマホを同時に買っても、アプリなど使い方次第で全く異なるものになる。同じように家電もピッと消費者に合わせる。AIと自社クラウド、家電をつなぎ、我が家流、私流に育つ家電にする。これから家電はおもしろくなるよ」

 ツイッターで温かい言葉も寄せられている。

「これからも頑張って下さいね。我家のテレビは物持ちがよいので、未だにAQUOS世界の亀山モデルです。エアコン3台に、加湿器に空気清浄機2台etc……この夏買い替え予定の寝室のエアコンもシャープさんのにしようと思っていますから、此れ迄と変わりなくいて下さいね」

 今後をどうみるか。外資系家電メーカーの元社員は「(ホンハイ案優先は)目先のカネに目がくらんだのか。経営陣を含めガバナンスをそのまま維持して好転するほど業界は甘くない。今は消費者はソニーだからシャープだからという社名では買わない時代です。どんな商品でどんな体験ができるのかを重視しています。従来のメーカーの考え方、コスト優先だけの企業のままで、成功できるとは到底思えない」と手厳しい。

 早期退職した40代の元社員も「どちらの案も茨の道。リストラなしに再生はあり得ない。ホンハイは交渉上手。この流れで機構が離れれば、徐々にホンハイは支援条件を下げてくる。そうなれば後の祭りです」。

週刊朝日 2016年2月26日号より抜粋