考えようによっては、保険業界にとって新たな市場開拓のチャンス。しかし、ファイナンシャルプランナーの竹下さくら氏は、簡単ではないと予測する。

「自動車メーカーが保険ありきで自動運転車の普及を目指したとしても、自動運転車の事故の確率と損害の程度がわからない以上、損保会社は簡単に保険を作れません。損保会社の収益の6割は自賠責を含んだ自動車保険。事業の柱の部分であまりリスクは負えないのではないでしょうか」

 国内では昨年10月、名古屋大学の自動運転実験車が、公道を走行中に自損事故を起こした。米国ではグーグルが自動運転車の開発を進めているが、公道を走る実験車両による過去6年の事故件数は計11件に上る。

 グーグルでは、原因はいずれも人間の判断ミスによるものとしているが、現実に事故は起きているのだ。

 警察庁は自動運転車で事故が起きた場合の責任の所在や課題を整理するための検討委員会を昨年10月に設置。3月中に議論をまとめ、16年度以降、法改正を含めた法整備を目指すという。

 前出の川喜田氏は、こうしたさまざまな課題があるにもかかわらず、自動車業界内で自動運転化に後ろ向きの発言がタブー同然になっていることこそが問題だという。

「国内新車販売の落ち込みが続く中、自動運転車は業界浮揚のカギ。研究予算もつきやすいから技術者もあえてネガティブなことには触れません。なにより政府が、東京五輪までの普及という政治的な締め切りをつくり、『国策』にしてしまったことが大きいのです」

 安全に関わることだけに、確実に進めてほしい。

週刊朝日 2016年2月19日号より抜粋