妻:会社ではみんなが「可士和」と呼んでいて、あちこちから「可士和と仕事すると、すげえ楽しい!」みたいな声が耳に入ってくる。そのうちようやく、あの「最悪な佐藤」が彼だったとわかったんです。けっこう衝撃でした。見た目も驚きでしたね。当時、彼はスノーボードにはまっていて、髪は金髪。ダボッとしたジーンズのポケットからジャラッと鎖が下がっていて。

夫:完全にストリート系です。

妻:私は、わかりやすく言うと雑誌「ヴァンサンカン」みたいなファッションが好きだった。だから彼は本来、私が苦手なカテゴリーの人だったんです。それでも会ったとき、「すごくオシャレだな。センスがいいな」と思えたんです。

夫:まったく違うジャンル同士だったんですけどね。

妻:結婚するときに仲のいいマガジンハウスの編集者の方に「なんでヴァンサンカンとポパイが結婚すんの!?」って言われました。

夫:そうそう(笑)。

妻:それに最初はファッションが目に入ったけど、話をするうちに外見だけじゃなく彼の生き方のセンスみたいなものを「カッコいいな」と思ったんです。作り出すものもそうだし、そこに向かう姿勢も尊敬できた。

夫:僕も彼女の人としてのセンスにピンと来たんだと思います。やっぱりそこが合わないとダメですよね。たまたま彼女の実家と僕の実家が4駅違いだったこともひとつの要因かな。親近感がありましたね。

――だが、育った環境は全く違った。妻の家は代々サラリーマン。夫の父は建築家で、祖父はロシア語学者だ。

夫:僕は美大出身ですが、悦子みたいなタイプの人って周囲にいなかったんですよ。そこもおもしろかったのかな。

妻:私は身近に起業している人も、ましてやクリエーターなんていなかった。まさか自分がそういう人と結婚するなんて想像もしていませんでした。

週刊朝日 2016年2月12日号より抜粋