高橋源一郎さん(左)と林真理子さん(撮影/写真部・堀内慶太郎)
高橋源一郎さん(左)と林真理子さん(撮影/写真部・堀内慶太郎)

 作家の林真理子さんは、谷崎潤一郎賞をはじめ数々の賞を受賞し、社会問題についても積極的に発言をしている作家の高橋源一郎さんとの対談で、活字の人間とネットの違いをこう語った。

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林:日本だけじゃなくて、ヨーロッパやアメリカの状況も心配ですよ。

高橋:フランスは12月の地方選挙で、極右のマリーヌ・ルペン率いる国民戦線が、第1回投票で13選挙区のうち六つで首位に立ちました。第2回投票で右派と左派が協力して阻んだとはいえ、得票率は30%近くあったからね。

林:アメリカでも、共和党のドナルド・トランプの支持率がどんどん上がってますよね。まさか大統領にはならないと思いますが……。

高橋:アメリカの新聞では最初はキワモノ候補扱いだったけど、ここ最近はさすがに普通に批判するようになってきましたね。「イスラム教徒の入国禁止」とか、常識で考えたらあり得ない主張をする人が、多数派の一歩手前まで来ちゃった。ヘイトスピーチだって……。

林:私、ああいうことを平気で言う人たちって、信じられませんよ。

高橋:ねえ。昔、親が、「人を口汚くののしってはいけません」「“死ね”とか“バカ”とか言っちゃいけません」って教えてたよね。右とか左の問題じゃなくて。

林:いまはネットに匿名で書かれた悪口があふれてますから。私たち活字の人間は、人を批判するときには非常に注意深く言葉を選びますが、それがネットでは主語が削られ、文脈が変えられ、「なるほど、こうなるのか」と思いますよ。

高橋:タガが緩んできたというか。僕や林さんみたいに言葉で生活してる者から見ると、怖いよね。

林:NHKの「新・映像の世紀」で、ヒトラーがなぜ政権をとることができたのかを綿密にやってたんです。連立政権を組む他の政党の党首が「2カ月もすればあの小僧は隅に追いやってやる」とか言ってたら、いつの間にか独裁者になっちゃって。

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