「だって、お金を稼ぐには仕方のないことでしょ? みんなやっていることでしょ?」と、本心では開き直っているかもしれない。残念ながら、それが今の日本社会のリアルな姿です。

 会社が利益を追求するのは当然のことですが、従業員や消費者、地域社会を軽視することは間違っている。この根本的なことを社会が議論し尽くせなかったツケが今、回ってきているんじゃないかと思います。

 そんなふうにすっかりおかしくなってしまった日本を、安倍政権の弱肉強食政策がさらに追い打ちをかけて加速させています。アベノミクスによって、ごく一部の人にとてつもない所得が集中していて、格差がさらに拡大している。非正規労働者が2千万人を超す中、7割が年収200万円に届かないことがわかって波紋を呼んだばかりですが、格差が広がり続ける歪んだ社会構造が顕著になってきています。

 問題なのは、それが表面化していないこと。安倍政権が掲げる「一億総活躍」なんて、戦時中の「進め一億火の玉だ」のスローガンと何ら差がないですよ。「成長」と「競争」、そして「利益」が最重視される社会構造に拍車がかかっている。利益最優先を追求するがゆえに、立て続けに象徴的な事件が発生しているというのに、これは本当に危機的な状況です。

 解決策がすぐに見つかる問題ではありませんが、本質的には「モラルを取り戻す」こと以外に対策はないと思う。少なくとも、「価値観の最上位=お金」という社会ではいけない。社会全体が、いかに危機感を持って金銭至上主義からの脱却に取り組めるか。今まさに問われているのではないでしょうか。

週刊朝日 2016年2月5日号