ジャーナリストの田原総一朗氏は、日本がアジアインフラ投資銀行(AIIB)に参加をしなかった理由は米国にあるという。

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 中国主導のアジアインフラ投資銀行(AIIB)が1月16日、北京で設立記念式典などを開き、本格的に業務を開始した。

 出資国は57カ国に上り、アジア諸国のほか、英仏独などヨーロッパ勢も加わった。初代総裁には、中国の金立群・元財政次官が就任した。

 AIIBの設立に先立ち、中国の財政部(日本の財務省に相当)が日本、米国を含めたG7各国に参加を求めていた。だが米国は、AIIBに常設の理事会を設けないために運営体制に透明性がないと危惧し、G7諸国に参加しないように求めていた。ところが、参加を見合わせるはずだったG7のヨーロッパ勢が、いずれも参加してしまったのである。

 読売新聞は社説でAIIBについて、「これまで、詳細な融資基準や資金調達の具体的方法などを明示してこなかった。市場からの信頼を確立し、安定的に資金を調達できるのだろうか」と強い疑問符を示し、「日米はAIIBへの出資を見送った。公平で中立な運営が期待できない以上、妥当な判断だ」と指摘している。社説の見出しは「公正な運営へ不安が拭えない」だった。

 産経新聞の社説は「疑問符」ではなく、はっきりと批判的だ。

「問題は中国色があまりに強いことである。これでは、中国の都合に左右される不透明な融資が行われる懸念は拭えない。(中略)何よりも3割を出資する中国は融資案件に対し単独の拒否権を行使できる盤石の態勢である。(中略)日本や米国がAIIBと距離を置き、参加を見送ったのは妥当だった」と、断定している。こちらの見出しは「中国の独善運営を許すな」である。

 
 だが、中国の事情に詳しいキヤノングローバル戦略研究所・研究主幹の瀬口清之氏の説明は次のようなものだった。

 英仏独などのG7勢が参加したのはAIIBが独善的でないことを見定めたからであり、日本が参加しないのは米国が参加しないからというだけの理由だ。そして米国が参加しないのはオバマ大統領が議会を説得できないためだ、というのだ。

 それに、中国の現在の議決権は約26%だが、日本が出資して25%を切ると、中国は拒否権の行使ができなくなり、運営が公正にならざるをえなくなるのだという。そして瀬口氏が知る限り、米国の経済学者の多くは日本がAIIBに参加して米国が参加できる環境をつくってほしいと求めている、ということだ。

 いま話題になっている『米中経済戦争 AIIB対TPP』(西村豪太著・東洋経済新報社)の中で、アジア開発銀行で6年間の勤務経験がある財務省OBの宗永健作氏の次のような見解が紹介されている。

「要するにわが国は米国を置き去りにして参加するという選択肢を持てないだけであって、参加しない理由はそれ以上でも以下でもない。そして米国は、英国のように経済的判断から加盟したくとも、IMFへの増資を5年間もたなざらしにしている米国議会が、中国主導のAIIBへの出資を承認するとも思われない。つまり優れて議会対策上の制約で米国はAIIBに参加できないのである」

 なお、同書で西村氏(週刊東洋経済編集長代理)は、「共通のルール作りを粘り強く進める。その努力が日本の生き残りには欠かせないだろう」と強調しているが、私も同意見である。

週刊朝日  2016年2月5日号

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田原総一朗

田原総一朗

田原総一朗(たはら・そういちろう)/1934年、滋賀県生まれ。60年、早稲田大学卒業後、岩波映画製作所に入社。64年、東京12チャンネル(現テレビ東京)に開局とともに入社。77年にフリーに。テレビ朝日系『朝まで生テレビ!』『サンデープロジェクト』でテレビジャーナリズムの新しい地平を拓く。98年、戦後の放送ジャーナリスト1人を選ぶ城戸又一賞を受賞。早稲田大学特命教授を歴任する(2017年3月まで)。 現在、「大隈塾」塾頭を務める。『朝まで生テレビ!』(テレビ朝日系)、『激論!クロスファイア』(BS朝日)の司会をはじめ、テレビ・ラジオの出演多数

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