作家・北原みのり氏の週刊朝日連載「ニッポンスッポンポンNEO」。昨年、東京都の渋谷区と世田谷区で同性のパートナーシップを認める制度がスタートしたことについて、北原氏は、一時的なブームで終わらないで欲しいという。

*  *  *

 女友だち(50代後半)に彼女ができた。相手は20代後半だという。

「いや~、でも私、性欲がもうないから~、大変よ~」

 そう言って、のろけるのである。しかも聞いてもいないのに、「彼女のほうから誘ってくれたの」とまで言うのだ。

 その瞬間、彼女のアダナは「チャ」となった。45歳の年の差婚をした加藤茶さんにちなんでだ。私たちはチャを前に、一斉に吠えた。

「たとえ『好き』と言われたとしても、『あなたの将来を考えるとお受けできません』と辞退するべきじゃない?」「だいたい財産があるならまだしも、なぜ?その若い彼女は何が目的なの!?」「性欲がないなんて嘘に決まってる!」

 もちろん、私たちは30歳以上の年の差同性カップルの登場が嬉しかったのだ。悪口の深さと完璧に比例するように、華やいだのだ。

 最近、LGBTという単語を、メディアで頻繁に見聞きするようになった。レズビアン、ゲイ、バイセクシュアル、トランスジェンダーを総称する言葉だ。

 昨年11月には世田谷区や渋谷区で、同性カップルを公に認定する制度ができた。ディズニーシーで結婚式を挙げた東小雪さんと増原裕子さんのカップル、フランスの法律でフランス人女性と婚姻したタレントの牧村朝子さんなど、女性を愛する女性たちの活躍が頼もしく目立つ。これもそれも、長年闘ってきた多くの先輩方が蒔(ま)いた種のおかげ。そして、その種を枯らさず花を咲かせてくれた若い世代の力だ。

 チャの恋に盛り上がる私たちは、提案した。「結婚式、挙げようよ!」「そうだ、女の茶婚はカッコイイ!」「女の希望だ!」などと、まぁ無責任にはしゃいでいる時、誰かがぽつりと、こう言った。

 
「だけど、茶婚のレズビアンに会場を貸してくれる所なんて、あるのかな」

 ……確かに。そこで私たちは、初めて黙った。

 本当にこの社会はLGBTを受け入れているのだろうか? なんとなしの「新しい」気分で盛り上がっているだけではなかろうか。LGBTはただ、「特別」に「許された」だけではないか。だいたいそもそも、茶婚のレズビアンカップルは、ディズニーシーで式を挙げられるか。

 誰もが一人一人違うように、女を愛する女たちも、もちろんみんな、違う。生き方も、愛し方も、関係の持ち方も、社会的に自分をどう語るかも、一人一人違う。全く違うことは前提で、でも、「本当には理解されないのではないか」という諦めや恐怖は、多くのLGBTが根底で味わってきたものだ。

 だからこそ、祈るように願うのだ。これがただのブームではありませんように。一人一人が違うことが尊重され、性を理由に貶められることのない社会を、私たちの力で育てられますように。安心して、愛する人と暮らせますように。そんなことを、本当に、祈るように願うのだ。

 とにかく、チャ! おめでとうです。式を挙げても挙げなくても、お幸せに。

週刊朝日 2016年1月29日号

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北原みのり

北原みのり

北原みのり(きたはら・みのり)/1970年生まれ。女性のためのセクシュアルグッズショップ「ラブピースクラブ」、シスターフッド出版社「アジュマブックス」の代表

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