「2013年に、奈良岡朋子さんの『八月の鯨』を三越劇場に観に行ったときに、トイレで同世代の女性に話しかけられたんです。『昔は、(渡辺さんが主宰していた劇団)3○○の舞台、観てたのよ。でも、小劇場だとお尻が痛くて』って。それで、『そうか。私の芝居のファンも、三越劇場と(東京・下北沢の劇場の)スズナリ、両方に足を運ぶ世代になったんだ』と思った。だから、これからは誰もがわかる、笑えて泣ける芝居と、過激なシュールな作品と、人生2本立てでいこうと思って(笑)」

「おばこ」は、かつての日本演劇界の重鎮・北條秀司による人情喜劇。実に40年ぶりの上演となるが、渡辺さんは以前、波乃久里子さんに、「えりちゃんじゃないとできない役よ。絶対やったほうがいい」と勧められたことがあるという。

「私が演じる花子は、山形出身の芸者で、お人よしで、人の笑顔のためならどんな苦労もいとわない。しかも自立している。たしかに、そんなキャラクターは私と通じる部分もあります。北條秀司先生の戯曲は、昭和の時代を描いているのに、まったく男女差別がないところも素晴らしい。身分違いの恋がなかなか許されない時代に、“社会全体の幸せを考える。それが、あるべき人間の姿だ”と伝える、社会風刺の芝居になっています。私は、拝金主義で、自分にしか興味のない生き方をしている人こそ、不幸だと思う。この芝居で、観る人を笑わせて、泣かせて。最後は人の幸せを思いやるという幸福に、浸っていただきたいですね」

週刊朝日  2016年1月22日号