10年の調査では、日本15.3~18%に対し、フランス91.6%、スウェーデン82%、ドイツ64.6%となっている(日本弁護士連合会から)。

 二つ目は下流老人が住宅を安く借りられるようにするための家賃補助である。日本には低所得者向けの公営住宅はあるが、圧倒的に数が足りない。そのため下流老人の多くは仕方なく民間賃貸住宅に住み、「家賃を払うと手元にほとんど残らない」状況に追い込まれている。家賃補助があればなんとか暮らしていける、という人は少なくないのである。三つ目は定年制の再考だ。内閣府の「高齢者の地域社会への参加に関する意識調査」では、半数以上の人は「70歳以降まで」または「働けるうちはいつまでも」働きたいと考えている。にもかかわらず、ほとんどの職場では定年制があるため、60~65歳で仕事を辞めなければならない。

 定年で仕事を辞めてしまうと、新しい仕事を探すにも職種は限られる。定年になった人が働けるのは駐車場の整備係かスーパーの警備員、ビルの清掃員くらいという現実を知って嫌になる人は少なくない。しかも賃金は大幅に下がるため、いくら働いてもなかなか生活は楽にならない。

 定年制の見直しは年功序列賃金の見直しとセットで進めなければならず、簡単ではない。しかし、世界的に見れば、日本の定年制は特異な存在と言える。アメリカでは企業が従業員の年齢だけを理由に退職を迫るのは年齢差別禁止法(1967年)違反とされ、定年制は廃止された。また、欧州でもほとんどの国で定年制は廃止されている。

 ボストン大学で高齢者就労の研究を行っているマルシェ・キャットスーペス博士はこう指摘する。

「高齢者の中には年金や蓄えが不十分で働かなければならない人や、自らの経験や能力を役立てたいと思っている人などさまざまな人がいますが、定年制の問題は全ての人を同じように画一的にみてしまうことです。彼らの能力、経験などを活用しないのは国や社会にとっても大きな損失です」

 定年制がなければ、高齢従業員は個々の体力・気力・能力や老後の備えなどの状況に合わせて退職時期を決められる。そうすれば、年金だけでは生活できない下流老人をかなり減らすことができるだろう。

週刊朝日 2016年1月22日号より抜粋