昨年末、10億円もの資金で支援事業を行うことを安倍首相が決めた慰安婦問題。国内と国際舞台で一転する首相のダブルスタンダードに作家の室井佑月氏は憤慨する。

*  *  *

 あらためまして、あけましておめでとう。今日は1月3日。これがほんとの新年初の原稿です。

 じつはあたし、年末からもんもんとしていたの。去年の12月28日に日本と韓国の外相会談がソウルで行われたじゃん。

 NHKの夕方のニュースによれば、結局、

「慰安婦問題を巡って、日本政府は責任を痛感し、安倍総理大臣が、心からおわびと反省の気持ちを表明するとしたうえで、日韓両政府は韓国政府が設置する財団に日本政府の予算からおよそ10億円の資金を拠出し、元慰安婦への支援事業を行うことで合意しました」

 だそうだ。岸田外務大臣はその際の記者会見で、「慰安婦問題は、当時の軍の関与のもとに、多数の女性の名誉と尊厳を深く傷つけた問題であり、かかる観点から、日本政府は責任を痛感している」と述べた。

 ちょっと、待て。安倍さんやそのお仲間たちは、慰安婦に軍の強制はなかった、それどころか慰安婦の存在そのものがなかったと主張する人もいたんじゃなかったっけ?

 その人たちが頑張って、中学や高校の教科書から慰安婦の問題を省いたりしたんじゃなかったっけ?

 
 去年8月14日に出された安倍談話でも、「侵略」「おわび」という言葉は使っていたけれど、慰安婦については、「戦時下、多くの女性たちの尊厳や名誉が深く傷つけられた過去を、この胸に刻み続けます」、その程度で濁し、「慰安婦」という言葉自体を使うのさえ拒否ったのではなかったか。

 国際舞台となると、国内でいっていることと変わるのね。

 なぜなのかと考えていたら、翌日29日の東京新聞に「『妥結』の重さを学んだ 従軍慰安婦問題で合意」という社説が書かれていた。

 辞書で調べてみたら、「妥結」とは、「利害の対立する二者が、同意に達して約束を結ぶに至ること。双方が互いに折れ合って、話がまとまること」だという。

 個人的にあたしは、おなじアジア人同士、妥結でもなんでもし、歩み寄ったほうがいいと思う。

 が、その社説にはこうも書かれていた。「日韓双方の背中を押したのは米国だった」と。

 つまり、日本も韓国もアメリカにせっつかれたってことだわな。たまにはアメリカも良いことをするじゃん、そう思う?

 あたしはそう思わない。日本も韓国も大国アメリカの支配下にあると感じた。それって恐ろしい。アメリカ=正義じゃないし、我々を誰が守ってくれるのだ。

 1月3日の東京新聞に「安保法運用参院選後に」という記事を見つけた。

「安倍政権は、安保法で新たに可能となる弾薬の提供など、米軍への支援範囲を拡大するための手続きも参院選後に先送りする」

 この国はアメリカの要請を断ることはできるのか?そんな考えもないんじゃないか。だから、その前に選挙で国民を騙くらかしてって、……酷(ひど)い。

週刊朝日  2016年1月22日号

著者プロフィールを見る
室井佑月

室井佑月

室井佑月(むろい・ゆづき)/作家。1970年、青森県生まれ。「小説新潮」誌の「読者による性の小説」に入選し作家デビュー。テレビ・コメンテーターとしても活躍。「しがみつく女」をまとめた「この国は、変われないの?」(新日本出版社)が発売中

室井佑月の記事一覧はこちら