「うつ病やアルコール依存症、薬物依存など前面に出ている別の問題で病院を受診する患者がほとんどですが、患者の話を聞いていると、BPDがひそんでいるケースがあります」(帝京大学病院・林直樹医師)
日本で標準的におこなう治療は、精神科医や臨床心理士が患者と一対一の面接をおこなう個人精神療法だ。これに薬物療法や複数の患者でおこなう集団療法などを組み合わせる。
個人精神療法の基礎となるのが「認知行動療法」だ。BPDのさまざまな問題行動の背景には、特有の認知の偏り方がある。たとえば、「みんなが私を嫌っている」「家族も医者も私の敵だ」などの思い込みだ。面接でこうした歪んだ認知のパターンを修正していく。
水島さんを担当した林医師は、水島さんの著しく低くなった自己評価に対して、「あなたは悪くない。本来苦しむ必要はないはず」という評価の立て直しをおこなった。
さらに、感情が高まったときに自分ができる対処法として、リラックスするための呼吸法やストレッチの指導もおこなった。
このように実際の治療では、医師が患者の個別の問題に合わせた具体的なアドバイスをおこなっていく。
水島さんは、初診後2年、波はあるものの、平静に過ごせる時間が増えている。
自傷行為や感情の激しさなどがおさまっても、患者が満足いく社会生活を送るためには、さらなる治療が必要な場合が多い。
※週刊朝日 2016年1月1-8日号より抜粋