地方創生に力を入れる政府。有効求人倍率が上がり、効果があったように思えるがそこには意外なカラクリが。ジャーナリストの田原総一朗氏は「地方創生」より移民導入に本腰を入れるべきだと考える。

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 12月8日夜、安倍首相が東京都心で企業経営者たちの集うパーティーで、誇らしげに次のように語った。

「この1年、地方創生に取り組んでまいりましたが、七つの県で有効求人倍率は過去最高になりました。高知県においては1963年に統計を取り始めて以来、初めて有効求人倍率が1.0倍になった。県庁で乾杯をしたそうです」

 有効求人倍率とは、求職者1人あたりに何件の求人があるのかを示した数字。それが上がったということは、雇用環境が改善されたことにほかならない。この話がよほど気に入ったのか、首相は11月29日の自民党立党60年記念式典でも披露した。地方創生の成果としてアピールするにはもってこいなのだろう。

 冒頭の安倍首相の発言は毎日新聞の12月15日の夕刊からの引用なのだが、その紙面で同紙は、首相のアピールとは裏腹の深刻な現実を示している。

 毎日新聞が厚生労働省高知労働局と高知県に取材したところ、たしかに高知県の2015年9月と10月の有効求人倍率は、史上初めて1倍の大台に乗った。しかし、その要因は求人の増加だけではなく、求職者の減少にもあることがわかった。

 労働局によると、09年の求職者は毎月平均約1万9千人だったが、年々減少して、15年10月に約1万4千人となった。仮に求職者数が09年と変わらなければ、10月の倍率は0.75倍であった。

 
 計算上、分母にあたる求職者が減れば、有効求人倍率が上がるのは当然である。では、なぜ求職者が減ったのか。労働局の説明では、少子化と若者の県外流出などで労働人口が減っているのだという。

 毎日新聞は「『雇用改善』の一因が過疎化・少子化による人手不足にもあるとすれば、地方の『創生』どころか『衰退』が進んだことにもなりかねない」と指摘している。

 実は00年から12年までの間に、廃校になった公立学校が5796校、廃止されるバス路線が毎年2千キロメートルに及んでいる。

 高知県だけではなく、ほとんどの県が人口減少による深刻な人手不足に悩んでいて、政府に移民の受け入れを強く求めているのである。

 ところが日本では、移民は実際にはタブーのような状態で、たとえば、「外国人労働力の比率」が、シンガポールでは37.0%、アメリカ16.2%、イギリス8.0%、韓国1.8%であるのに対して、日本は1.0%でしかなく、日本の定住外国人の割合は、なんと世界で151位となっている。

 それに、イギリス、フランス、ドイツなどヨーロッパ諸国では04年前後に移民法が定められ、韓国でも07年に移民法に近い制度がつくられているのに、日本では移民法を検討する気配さえなく、たとえば外国人労働者を受け入れるための技能実習制度は設けられているのだが、建前と実態が乖離していて、3年ですべて本国に送り返している。

 石破茂地方創生担当相は11月24日の記者会見で、「人口が減る中で、移民の方々を受け入れる政策を進めるべきだ。外国人が日本に来るのはだめというのはおかしい」と強調し、河野太郎行革相も11月7日の国際会議で「(移民受け入れについて)そろそろテーブルに載せ、議論をはじめる覚悟が必要だ」と言っているのだが、現在のところ、かけ声以上には進んでいないようだ。

週刊朝日 2016年1月1-8日号

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田原総一朗

田原総一朗

田原総一朗(たはら・そういちろう)/1934年、滋賀県生まれ。60年、早稲田大学卒業後、岩波映画製作所に入社。64年、東京12チャンネル(現テレビ東京)に開局とともに入社。77年にフリーに。テレビ朝日系『朝まで生テレビ!』『サンデープロジェクト』でテレビジャーナリズムの新しい地平を拓く。98年、戦後の放送ジャーナリスト1人を選ぶ城戸又一賞を受賞。早稲田大学特命教授を歴任する(2017年3月まで)。 現在、「大隈塾」塾頭を務める。『朝まで生テレビ!』(テレビ朝日系)、『激論!クロスファイア』(BS朝日)の司会をはじめ、テレビ・ラジオの出演多数

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