年の瀬が近づき、プロ野球の契約更改交渉も佳境を迎えている。西武ライオンズの元エースで監督経験もある東尾修氏は、年俸に対する自覚を持ってほしいという。

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 プロ野球の契約更改交渉も終わりつつある。年末に向けて、選手たちも自主トレへと気持ちを切り替える時期になった。

 それにしても、各選手の年俸の上下幅が本当に大きいよな。日本ハムの大谷が1億円から倍増の2億円になった。トリプルスリーを達成したヤクルト・山田も2015年の8千万円から2億2千万円に。顕著な働きをすれば、すぐに1億円くらい上がる。一方で、巨人の杉内は5億円から基本年俸5千万円に。ある程度は出来高でリカバーできるとはいえ、驚いたね。

 オリックスの金子はFA残留で14年に結んだ4年20億円の契約が残っており、現状維持の5億円で更改。「罪悪感と悔しさがある」と話した記事を目にした。5億円が当たり前となった日本球界。夢を売る職業だし、プロ選手として、年俸も選手の評価の一つではある。ただ、選手は責任感を持たなきゃいけないよな。

 翌年にFA権を手にする選手に対し、各球団は大型複数年契約を結ぶ時代になった。契約年数だけ決めておいて、1年ごとの変動制を組む選手も多い。出来高も含めていろんな契約形態があって、球団も大変だよ。代理人交渉が認められて10年以上たつが、契約は年々複雑化している。

 一つ気になったことがある。労組・日本プロ野球選手会で、FA権を行使しての「宣言残留」を認めない方針を球団が公表することは、「選手への圧力になる」との声が上がったという。「圧力」というのはどうだろう。

 
 所属球団はシーズン中や終了直後から選手と下交渉をし、残留させるための条件を提示する。本当に残ってもらいたい選手には、大幅昇給や複数年契約が提示される。選手はその条件を見たうえでFA宣言するのだから、球団にしてみれば「こちらの提示額に納得できずにFA宣言するなら、残らなくていい」と考えるのは自然の流れだろう。宣言残留を認めない方針を打ち出すことは、球団の権利でもあるはずだ。

 主力とまでは言えない選手であれば、FA権を持ったとしても行使をためらうだろう。サラリーマンが「退社したい。ただ、別会社と交渉して不調に終わったら僕を戻してくれ」と言ったとしても、戻してくれる会社なんてない。移籍を希望するということは、それだけのリスクを伴う。

 もはや1億円は「大台」と言えないほど、年俸は高騰している。それだけ、選手には責任と自覚、そして球団から多くのお金をもらえているという、感謝の思いを少なからず持つべきだろう。条件や権利ばかり主張し、金額がひとり歩きして、そこに伴うはずの選手の責任感が希薄になってはいけない。その点はすごく気になるよな。

 私は投手では初の1億円プレーヤーとなったが、36歳の時だったかな。それまで何勝して、大台に到達したか。今、名球会の投手の全員の生涯年俸を足したって、すでに田中将大(米ヤンキース)が手にした金額に及ばないだろう。私が1億円を手にしたのはバブル期だった。半分を税金でとられ、マンション1室すら買えなかった。

 今の選手はうらやましい。でも、年俸には自覚を持ってほしいな。

週刊朝日 2016年1月1-8日号

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東尾修

東尾修

東尾修(ひがしお・おさむ)/1950年生まれ。69年に西鉄ライオンズに入団し、西武時代までライオンズのエースとして活躍。通算251勝247敗23セーブ。与死球165は歴代最多。西武監督時代(95~2001年)に2度リーグ優勝。

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