再来年4月の消費税率引き上げと同時に導入される軽減税率。対象を「酒類と外食を除く食品全般」とすることで自民、公明が大筋合意したが、作家の室井佑月氏は、この問題の報道の仕方に疑問を呈する。

*  *  *
 
 2017年4月の消費税10%への引き上げと同時に導入される軽減税率制度。生鮮食品までなのか加工品までなのか、それとも外食までOKにするのか、自民党と公明党の話し合いはつづいている(12月11日現在)。なんでも安倍首相が出てきて、鶴の一声で公明党案に近づいたとか。

 それを「さすが」と国民に思わせたいらしい意図を、バシバシ報道から感じてしまうのは、あたしだけか?

 あれか、建設費が膨れ上がった新国立競技場のときとおなじトリックか。あの時も安倍さんが「白紙撤回します」といって、報道は彼のその発言を褒めそやしたんだよ。

 おかしくね? 新国立競技場の暴走を招いたのは安倍さんのお仲間だ。誰がどう見たって暴走なんだから、それを組織の長として止めるのは当然だし、もっと早くどうにかしろよ、そういう普通の意見が正面に来ないのはどうしてなのか。

 軽減税率にしたってそう。誰が消費税を上げてくれと頼んだ? こういうことをいうと、増えつづける社会保障費はどうするっていい出す人がいるけれど、べつに消費税だけを社会保障費に充てなくてもいいじゃん。

 安保法で自衛隊を米軍とともに戦えるようにしたのに、在日米軍への思いやり予算がちっとも減らないのはなぜ? 今後5年間、100億円規模で増額するらしい。

 
 ちなみに2011~15年度の思いやり予算は約9300億円だった。すごい金額だ。

 16年度の防衛費概算要求は5兆円だしな。

 それに、安倍さんは12月11日インドへいって、新たに1.5兆円規模の支援を約束してきたよ。この人、海外へいくたびに、札束のお土産を忘れないな。

 法人税を減らしてるけど、企業は内部留保で溜め込むだけ。正規雇用の人間は減って非正規ばかりが増えている。

 内閣府が12月8日に発表したGDP統計は上方修正されたものの、景気は足踏みしたままだ。政府は「夏が暑かったから」なんて言い訳したけど、この次はなんて言い訳するのか。消費税を10%に上げるまで誤魔化すのかね。

 増えつづける社会保障費と、消費税の話、この二つだけを絡めて報道するマスコミはおかしくないか?

 と、そんなことを考えていたら、12日付の河北新報の社説に「軽減税率論議/なおざりにされた導入目的」という良い記事が載っていた。

「来年夏の参院選をにらんだ選挙対策が優先され、本来の目的である低所得者支援をめぐる議論はなおざりにされた観が否めない」

 と直球だ。

 ま、テレビでも識者は「16年の選挙のことを考え」くらいはいう。けど、それがどういうことなのかは絶対にいわない。誰に忖度してるのか? 気持ち悪いったらない。どういったことか、そこを、わかりやすく解説していただきたいのですがね。自分の言葉で。

週刊朝日  2016年1月1-8日号

著者プロフィールを見る
室井佑月

室井佑月

室井佑月(むろい・ゆづき)/作家。1970年、青森県生まれ。「小説新潮」誌の「読者による性の小説」に入選し作家デビュー。テレビ・コメンテーターとしても活躍。「しがみつく女」をまとめた「この国は、変われないの?」(新日本出版社)が発売中

室井佑月の記事一覧はこちら