翌年の96年1月、『濃尾参州記』で名古屋に滞在していたとき、夜も更けたころにうっかり私が、

「しょせん、政治家なんて誰がやっても同じですよね」

 と、わかったような口をきくと、

「そんなことはない。ちゃんとした人間がちゃんとやれば、もっとちゃんとした国になるんだ」

 と真顔で怒られてしまった。

 怒りの対象は私だけではないだろう。司馬さん最晩年の鬱屈を感じた瞬間だった。

週刊朝日 2015年12月25日号より抜粋