佐渡:審査員にどういうことか聞いたら、「ああいう演奏は文化祭ではよくてもコンクールではダメだ」と言われて、採点表を見たら0点になってるんですよ。小ぢんまりしたきれいなアンサンブルが評価されたんです。僕はすごいショックでね。あの音にたどり着くまでに彼女たちがどれだけ頑張ったのか、審査員だって想像がつかないはずがないのに……。それで審査員めがけてカバンをバーンと投げたんです。

林:うわっ。

佐渡:当時、うちの親父は教育委員会のそこそこエラいさんだったので、あとで相当怒られましたけどね。それから彼女たちとは縁が切れてしまったんですけど、10年前、長崎で終戦60年の平和コンサートをやった帰り際、僕らを見送る大勢の列の中から、「コーチーっ!」という声が聞こえてきたんです。「あれ?」と思ったけど、車を降りるわけにもいかなくて、引き返せなかったんです。

林:ええ。

佐渡:実は叫んだのは当時の吹奏楽部の部長で、長崎のカステラ屋に嫁に行って、僕に会えるかなと来てくれたんですね。そこからつながって、同窓会をやったりしたんです。

林:いい話。涙が出てきそう。これ、絶対映画にすべきです。阿部寛さんがコーチですよ(笑)。

佐渡:アハハハ。彼女たちにものすごいトラウマを作ってしまったと思っていたんですが、忘れられない夏の思い出となっていたんですね。

週刊朝日 2015年12月25日号より抜粋