指揮者佐渡裕(さど・ゆたか)1961年、京都府生まれ。京都市立芸術大学音楽学部卒業。87年の「タングルウッド音楽祭」で小澤征爾と故レナード・バーンスタインに才能を認められ、バーンスタインの「最後の愛弟子」となる。89年、「ブザンソン国際指揮者コンクール」で優勝し、翌年デビュー。兵庫県立芸術文化センター芸術監督。シエナ・ウインド・オーケストラ首席指揮者。2015年9月、オーストリアのトーンキュンストラー管弦楽団音楽監督に就任。16年5月に就任記念日本公演を東京、名古屋、大阪等で開催予定(撮影/写真部・加藤夏子)
指揮者
佐渡裕(さど・ゆたか)
1961年、京都府生まれ。京都市立芸術大学音楽学部卒業。87年の「タングルウッド音楽祭」で小澤征爾と故レナード・バーンスタインに才能を認められ、バーンスタインの「最後の愛弟子」となる。89年、「ブザンソン国際指揮者コンクール」で優勝し、翌年デビュー。兵庫県立芸術文化センター芸術監督。シエナ・ウインド・オーケストラ首席指揮者。2015年9月、オーストリアのトーンキュンストラー管弦楽団音楽監督に就任。16年5月に就任記念日本公演を東京、名古屋、大阪等で開催予定(撮影/写真部・加藤夏子)

 世界的マエストロで2015年9月にオーストリアのトーンキュンストラー管弦楽団音楽監督に就任した佐渡裕さん。作家・林真理子さんとの対談で、下積み時代の思い出を語った。

*  *  *
 
林:佐渡さんは下積みのころ、ママさんコーラスや吹奏楽部の指導もなさってたんですよね。

佐渡:京都の亀岡のママさんコーラスや女子高の吹奏楽部と過ごした時間は、僕にとって今でも音楽をする基準になってますね。あれだけ音の世界に打ち込み、彼女たちも僕を信じてくれて精いっぱい応えてくれたあのやり取りは、海を超えたプロのオーケストラが相手でも通用するに違いないと思ってやってるんです。もちろん、レベルは全然違うんですよ。でもベルリン・フィルだろうがママさんコーラスだろうが吹奏楽部だろうが、自分の中ではブレないというか。名門のオーケストラを振ってても、あのときほど幸福じゃなかったらいやなんですよ。

林:当時の教え子たちから、世界的マエストロになった佐渡先生に手紙が届いたりするんですか。

佐渡:ありますね。今もメールとか来ます。「コーチ、偉くなったなあ!」みたいな。

林:なんだかドラマになりそう。このあいだ「表参道高校合唱部!」というドラマがありましたし。

佐渡:ドラマチックな話がいっぱいあるんです。大学生のとき、アルバイトで女子高の吹奏楽部の講師をしたんです。「ドラえもん」と「サザエさん」しか吹けないような部活で、練習中はおとなしいのに、終わったとたんキャッキャッと騒がしくてね。「おまえら、そのエネルギーを楽器に使ったらコンクールで金賞が取れるぞ」と言って、シゴきまくったんです。朝練から始まって昼休みや放課後も練習して、夏休みも合宿して。そして大会当日、演奏が終わった瞬間、拍手じゃなくて「ウォォー」というどよめきが起こったんです。すごくショッキングな演奏だったんです。僕は確実に金賞を取ったと思ったら、なんと最下位の銅賞なんですよ。

林:えーっ?

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