大ヒット曲「高校三年生」でデビューしてから半世紀以上。70歳を過ぎてなお、ファンを熱狂させる魅力を持つ舟木一夫さんが、作家・林真理子さんとの対談で明かした、売れない時代に言われて最もきつかったこととは。
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林:奥さまって、大学を出たばっかりの若い方でしたよね。
舟木:七つ違いかな。結婚したのは僕が29歳のときですね。
林:舟木さんが苦しかったときも、ずっとついてきてくださったんですよね。
舟木:そういう時期も、「すまないね」とか「頑張るからね」とか、そんな歯の浮くようなこと言えなかったですね。お互い嫌いで一緒になったわけじゃねえんだからしょうがないと。僕は30代半ばから40代前半がいわゆる“寒い時期”で、小さな商業施設の営業にも行きました。
林:「あの舟木一夫が? ウソ!」って感じだったんじゃないですか。
舟木:いや、敷地内の喫茶店でお茶を飲んでると、「今さら舟木一夫もねえよな。お客なんか来るのかい」なんて会話が聞こえてくるんですよ。
林:ひどい!
舟木:僕は「ああ、そうだろうな」と思うわけです。自覚してますから。でも、突き刺さるのはそういう会話じゃないんです。タクシーに乗って「どこそこにお願いします」って言うと、声でバレるんですね。「舟木さんですか」「はい」「私の青春時代、みんなで『学園広場』を歌ったもんです。いい時代でした」。お金を払おうとすると、「けっこうです。いい記念になりました」ってスーッと行っちゃう。罵声よりはそっちのほうがイタかったですね。