フランスでテロを起こしたイスラム国。日本もついに宣戦布告されてしまったが、作家の室井佑月氏は、被害に遭わないためにも日本は「イスラム側とも西側欧米諸国側とも距離を置いてほしい」と願う。

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「フランスとロシアは11月17日、シリアにある過激派組織『イスラム国』の拠点を空爆した。13日のパリ同時多発攻撃と10月のロシア旅客機墜落に関与したイスラム国への報復が目的で、両国はさらなる攻撃強化に向けて連携に動いている」

 というロイター通信の記事。その後、さらなるつづきがあって、

「米国からパリに向かっていたエールフランスの旅客機2便が17日夜(日本時間18日午前)、『爆破予告』を受けて緊急着陸した」

 今後も世界中で爆破予告はあるだろうか。人命がかかっているから、そのたび世の中の動きを止めなくてはならない。実際に殺されてしまった人もいるのだし。

 無差別に人を殺すテロは許せない。早く消えてなくなれと思う。

 しかし、感情的なことは置いといて、テロをなくすための具体案はないんじゃないかとも思う。

 現在、西側欧米諸国やロシアが行っている空爆が、功を奏しているとは思えない。

 家族や恋人を殺された報復に燃える人だっていることだし、同族感情から西側欧米諸国を憎む人も出てくるはずだ。

 そしてまたテロが起こり、それに対して報復し……。その戦いに終わりはあるのだろうか。

 何度もいうが、無差別に人を殺すテロは許せない。けれど見方を変えれば、向こうだって無差別に人を殺す空爆は許せない、そう思っているのかも。

 
 この国は、そういう泥仕合にあまりかかわらないでほしい。できるだけイスラム側とも西側欧米諸国側とも距離を置いてほしい。

 イスラム国と戦う周辺諸国への支援を約束し、日本人はテロのターゲットに名指しされてしまった。でも、ターゲットの順番はまだ低いと願いたい。直接、軍を送ったり、空爆はしていないから。

 今後、西側欧米諸国からせっつかれ、支援金を出さざるをえなくても、できるだけ目立たないようにやってほしい。兵站や武器提供なんか絶対にしないで。

 こういったことをいうと、「テロに屈するのか!」「イスラム国の味方か!」と一部の人が怒ったりする。

「友達が戦っているのに、こちらも血を流さなくては」といわれてもね。友達が敵になったりするのが世の常識。ほんとうに仲の良い自分らの事情を話せる友達じゃないから、困っているんじゃないんですか?

 それに、テロが怖いと思う気持ちをやめろといわれても無理がある。

 実際に血を流すのは、西側欧米諸国と一緒に戦おうと、勇ましい約束をしてきたりする人じゃない。そういう人たちには、屈強なSPがつき、送り迎えはハイヤーで、テロで死ぬ確率も低そうだ。

 11月17日、トルコから帰国した安倍さんは、国家安全保障会議(NSC)を開き、菅官房長官らに「未然防止に全力を尽くしてほしい」と指示を出したという。

 フランスだって、とっくにそうしていたと思うけど。

週刊朝日 2015年12月11日号

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室井佑月

室井佑月

室井佑月(むろい・ゆづき)/作家。1970年、青森県生まれ。「小説新潮」誌の「読者による性の小説」に入選し作家デビュー。テレビ・コメンテーターとしても活躍。「しがみつく女」をまとめた「この国は、変われないの?」(新日本出版社)が発売中

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