「実戦経験のない自衛隊がいきなり地上軍の戦闘に参加することはなく、最初は後方支援で輸送機などを派遣する形になるだろう。米国からの要求も段階的に上がり、最初はNGOなど民間人や食料品、次は武器、やがては兵士の輸送となってくる。後方支援なら安全かというと、そうではない。ISはミサイルの装備も整えていて、7月にはエジプトの艦船に小型ミサイル攻撃を仕掛けている。自衛隊の航空機も攻撃される可能性はある」

 2001年の9・11当時、小泉内閣は海上自衛隊の護衛艦と補給艦をインド洋に派遣して補給支援を行わせた。03年からの対イラク戦争でも陸上自衛隊をサマワに派遣し、復興支援をさせたが、死者は出なかった。

 だが、安保法制により、他国部隊などが襲われた場合、助けに向かう「駆けつけ警護」などの任務が解禁となる。そのため、「自衛隊員の犠牲は避けられない」と軍事ジャーナリストの田岡俊次氏は警告する。

「もし、シリア政府が他国の地上部隊を受け入れるならば、日本がそれに加わってもどこの国からも非難は受けない。だが、日本の部隊が駆けつけ警護や輸送、補給、検問などをすれば、数十人程度の死傷者が出る可能性はある」

 前出の坂本氏は、自衛隊が自爆テロの対象となる危険性もあると指摘する。

「ISは最近では少年兵も養成している。仮に自衛隊がサマワのときのような支援をすることになった場合、少年兵として訓練された子供が、市民にまぎれて自衛隊と接触してくるかもしれない。自衛隊員も、明らかな自爆目的の車両であれば、対戦車砲などで阻止できるが、農家が使うようなトラックに擬装して攻撃を仕掛けてきたときは、攻撃していいのか、判断がつかない。実際にそういうことは起こりうる」

 あるいは逆に現地で人々を誤射するリスクもある。

「仮に一般車両を自爆車両と間違えて誤射すれば、地元民との信頼関係が失われてしまう。誤射と隣り合わせの任務は、隊員にもかなりのプレッシャーとなる。それとも、『一般市民の多少の犠牲はしょうがない』と割り切って攻撃するのか。自衛隊員は苦悩すると思う」(坂本氏)

 来年3月にも予定されている安保法制施行に向け、内閣法制局や防衛省などが新たな交戦規定を極秘協議。テキスト作りを進めているという。

「武器使用基準を拡大し、自分たちの身を守りやすくしただけでは戦場で身は守れない。駆けつけ警護や検問、補給などの際、敵と対峙してしまったら、まず最初は足元を狙い、次は急所の胸を撃つとか、そういうシミュレーションも決めていかないといけない。相手を殺すことを前提に考えなければ、命を落とすのは自衛隊員だ」(防衛省関係者)

(本誌・亀井洋志、西岡千史)

週刊朝日 2015年12月4日号より抜粋