「歩道の縁石が中途半端な高さのため、引っ掛けてバランスを崩している。段差をなくすか、のぼれないほど高くするか、どちらか明確にしたほうがいい」(40代自営業男性)

 車道と歩道を分ける「歩車道境界ブロック」は不自然な位置取りで高さ5センチや2センチの部分が入り組み、ブロック表面には自転車のタイヤ痕とみられる斜めの黒い線も複数あった。歩道も狭く、成人が歩けるほどしかない。事故の引き金、リスクだらけなのだ。

 約1時間ほど現場を観察すると、後方から車が接近した際、歩道に逃げ込む自転車が前輪をとられている。それもひとりではない。管理者の船橋市に電話で尋ねると、状況は把握しているというのだ。渡辺一生・市道路管理課長は言う。

「現場を通る市道は大昔からあった道路で、悪いことは知っています。幅を含めて歩道も基準に合っていない。道路幅に余裕があれば、それなりの歩道は造れるが、現状の制約の範囲でああいう構成になっている。(境界ブロックの状態は)沿道の建て替えなど、街が発展し、長い時間でできあがった部分です」

 現場は再検証して対応できる部分はするらしいが「同じような場所は市内にたくさんある」というのだ。

 ただ積極的に自転車のために環境整備を進めようとする自治体もある。兵庫県尼崎市もその一つだ。

「夕方の尼崎の工場前は自転車だらけ。昔の中国・天安門広場前かと思ったぐらい」(尼崎市内警察署の勤務経験者)

 尼崎市は今年度から各部門で横断的な「自転車プロジェクトチーム」を創設。質の良い自転車の利用を促し「自転車のまち」を目指すのが目的だ。というのも市内には、3路線計13駅があり、坂道も少なく平坦なため、通勤通学で自転車を利用する人が比較的多い。半面、交通事故に占める自転車事故の割合が全国平均の倍の4割と高い。いま力を入れているのが「自転車専用レーン」の設置だ。

 市道路維持担当課によると、まずは各駅間と公共施設同士を結ぶ幹線道路を中心に専用レーンを整備する。計画段階から国や県も巻き込むことに成功し、市内全体の整備計画を作成した。仁尾克己課長は言う。

「日本は良くも悪くも車優先の時代があった。その道路が残っている。一朝一夕にはいかないが、いかに今ある道路幅員の中で工夫し、再配分するかなんです」

 だが尼崎市のような例はまだ少数派だ。尼崎市でも市道だけで約800キロ。狭い歩道も多く残り、高度成長期の「負の遺産」をめぐる対策はまだ緒に就いたばかりだ。「県境近くの道だけを改修し、外面だけ整えている自治体や、改修したい気持ちはあっても財政難でほとんど手つかずの自治体もある」(仁尾課長)。交通事故に詳しい、みらい総合法律事務所の谷原誠弁護士も言う。

「自転車は車道走行とされながら、狭い車道や歩道がある。本来であれば、自転車専用レーンを造るべきですが、法律の建前と実際の道路の設置状況には乖離があるということなんです」

週刊朝日 2015年11月27日号より抜粋