「二つ持ってました、ドアストッパー」(※イメージ)
「二つ持ってました、ドアストッパー」(※イメージ)

 落語会で一緒になった前座のAくんの気遣いに感動した春風亭一之輔さん。Aくんの用意周到さはまるでドラえもんのようだという。

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 前座のAくんはとても『デキる男』です。

 ある地方の落語会で一緒になった時のこと。楽屋で鼻をグズグズさせている風邪気味の私をチラリと見て、Aくんは「師匠、よろしければ」とポケットティッシュを差し出してくれました。

「お! ありがとう!」。チーンと洟をかんで紙を丸めキョロキョロしていると、今度は「どうぞ」と、いい間でゴミ箱を。

「サンキュー」とティッシュを返そうとすると「いえ。よろしければお使いください。私はもう一つ持ってますので」。

 抜群の“間”と“返し”です。これ、洟をかんでる時点でゴミ箱出しちゃいけないのです。相手は「早くかめよ!!」とせかされたと感じるかもしれないから。ゴミ箱探してるなー、と思った瞬間に機敏にゴミ箱を手に取り、そして柔らかに差し出す。

 楽屋に備え付けのゴミ箱がなかった時、Aくんはカバンから折り畳み式の簡易ゴミ箱を取り出して「お使いください」とすすめてくれました。「持ち歩いてるの?」と聞くと「たまたまです(笑)」。憎らしいくらいクールでスマート!!

 この後、Aくんにはいろんなものを借りました。筆ペン・朱肉・胃薬・頭痛薬・歯みがき粉・龍角散のど飴・つまようじ・爪切り・電気シェーバーの掃除用ブラシ・携帯の充電器(ガラケー用とスマホ用の両方持っていた)・足袋(私と同じ25.5センチで、なんと2足持っていた!)……お前はドラえもんか!?

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