林:八代さんはもともと、ドレスを着て「ブルーノート」みたいなジャズクラブで歌うシンガーを目指してらしたんですよね。

八代:私が小学校5、6年生のとき、父がジュリー・ロンドン(米国のジャズ歌手、クラブシンガー)のレコードを買ってきてくれて、憧れました。夢がかなったので、レコード会社からスカウトに来ても断っていたんです。でもお姉さんたちに、「アキちゃんの歌を直接聴けない人にも聴かせてあげて」と背中を押されて、決めました。

林:歌手の方って、クラブで歌ってたほうがお金が入って、デビューを目指すと貧乏になっちゃうって、誰かが言ってました。

八代:そうそう。大卒の初任給が2万円ぐらいのころに月給20万円でしたから。21歳で八代亜紀になってから貧乏になりました(笑)。

林:最初はマネジャーさんもついてなかったんですって?

八代:地方キャンペーンには一人で行っていました。トランクいっぱいにレコードを詰めて、キャバレーを回るんです。その売り上げをマネジャーに渡すと、持ってどこか行っちゃうんです。そういうこといっぱいされました。

林:ひど~い。人を疑うことを知らなかったんですか。

八代:ぜんぜん知らなかったんです。30代も、人間関係やいろんなトラブルでひどい状態でした。大ヒットをばんばん飛ばして、コンサート、コンサートで休むヒマもないくらい歌っているのに、そのお金が私の知らないうちに消えてしまう。そういう状態が8年続きました。

林:どうして気づかなかったんですか。

八代:気づいてるんですけど、「違うかもしれない」って。

林:信じようとしてたんですね。ほんとにいい人。

週刊朝日  2015年11月27日号より抜粋