「報道」とは何なのか――。ジャーナリストの田原総一朗氏は、マスメディア自体が迷走し、政府による憲法違反の介入を許してしまっていると批判する。

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 NHKの「クローズアップ現代」で、事実上のやらせがあったことが判明した。私自身、その番組を見たが、なんとも安手の、レベルの低いやらせであった。BPOが、そのことを厳しく批判した。

 だが、この番組について高市早苗総務相がNHKに厳重注意をし、自民党の調査会がNHK幹部を聴取したのは問題である。

 放送法第4条には「報道は事実をまげない」とか、「公安及び善良な風俗を害しない」「政治的に公平」などと多様な解釈が可能な項目が並んでいる。だが、憲法では「言論、表現の自由」は保障されることになっている。そして放送法第4条は「倫理規範」であって、権力が介入するのは憲法違反である。

 はっきり言って、報道は「公安及び善良な風俗」を害することもあるし、「政治的に公平」でない場合もある。たとえば、安保関連法案で政治的に公平であろうとすれば、どのような番組になるのか。

 各紙の世論調査では、国民の約80%が、この法案については「わからない」であった。明らかに、政府が、国民に対して理解できるような説明をしていないからである。

 たとえば安倍晋三首相は、集団的自衛権を行使するケースとして、ホルムズ海峡が機雷で封鎖されたとき、それを取り除く作業をあげた。あるいは第二の朝鮮戦争が起きたとき、米艦が韓国在住の日本人を救助して、日本に送り届ける場合、その米艦を防護するというケースを示した。だが、いずれも後に、政府自らが否定している。これでは、国民に理解せよと求めるのが無理である。

 
 また経済産業省は2030年度のエネルギーの構成のうち原発を20~22%とした。だが、たとえ現在日本にある原発をすべて再稼働させたとしても、30年度には15%を切ることになる。それに、すべての原発を再稼働させるのは無理なので、20~22%になどなるはずがない。

 そんなことは、政府の電源構成案が発表されたときから明白なのだが、当時のマスメディアは、そのことを報じなかった。

 私から言わせれば、マスメディアが、誤った「政治的に公平」に縛られていたのである。そのために事実を報じなかったのだ。

 私は、放送に政治権力が介入するのは憲法違反で、やってはならないことだととらえているが、中には憲法に無知な担当相もあらわれる。自民党議員たちの勉強会で、「マスコミを懲らしめる方法」が公然と語られるなど、自分たちの立場がわかっていない連中の仕業である。 

 こんなとき放送局側は、ただちにそのことを放送して抗議すべきなのだ。公然と抗議すれば国民の大多数は担当相や議員たちの間違いにあきれて、当人たちは強く後悔することになるはずだ。だが、多くの放送局は、政府筋や自民党筋から憲法に違反する介入があったとき、それを明らかにするどころか、包み隠してしまうことが多い。そしてあろうことか、その憲法違反の介入に従ってしまうのである。こんなことをやっていると、権力の側は、それで良いのだということになり、どんどんつけ上がってくる。今回のNHKの事件は、言ってみれば権力の側をつけ上がらせた結果だと言えるだろう。

 放送局の側は、自分たちの放送にもっと自信と責任を持つべきである。権力の介入を許すというのは、放送局側が無責任だとも言える。

週刊朝日 2015年11月27日号

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田原総一朗

田原総一朗

田原総一朗(たはら・そういちろう)/1934年、滋賀県生まれ。60年、早稲田大学卒業後、岩波映画製作所に入社。64年、東京12チャンネル(現テレビ東京)に開局とともに入社。77年にフリーに。テレビ朝日系『朝まで生テレビ!』『サンデープロジェクト』でテレビジャーナリズムの新しい地平を拓く。98年、戦後の放送ジャーナリスト1人を選ぶ城戸又一賞を受賞。早稲田大学特命教授を歴任する(2017年3月まで)。 現在、「大隈塾」塾頭を務める。『朝まで生テレビ!』(テレビ朝日系)、『激論!クロスファイア』(BS朝日)の司会をはじめ、テレビ・ラジオの出演多数

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