見通しが立たない点が多いのが遺族補償の問題点ということだが、「今後、賞恤金は減額されるのでは」と、ショッキングな予測をするのは元陸上自衛隊レンジャー隊員の井筒高雄氏である。

「1人約1億円を国が支払うとすると、仮に100人戦死者が出たら100億円になる。今後、海外派遣のコストも加わって防衛予算が逼迫(ひっぱく)する中、戦力充実にもつながらない補償に、そこまで支出できなくなるのではないか」(井筒氏)

 実際、アフガン戦争とイラク戦争で計6千人を超える死者を出しているアメリカでは、戦死者の弔慰金は1200万円程度。自衛隊員の命の値段が今後、「コストカット」の対象にならない保証はない。

 こうした「命の値段」を考えていくと、どのような自衛官が戦場に送られるのかも類推できるのだという。

「勤続年数が長く階級も上のベテランや幹部のほうが、死亡時の退職金が高くなる。特に公務中の死亡では『1階級特進』もあるので、退職金はさらにはね上がります。海外に地上部隊として派遣されるのは、勤続年数も短く階級も低い20代の若い隊員が中心になるでしょう。特に自衛隊は最近、人件費削減のために一般企業の『非正規雇用』にあたる『任期制自衛官』を増やしている。こうした人々がいわば『消耗品』として海外に送られるのです」(同)

 一つのターニングポイントになりそうなのは来年だ。ある防衛省関係者は、こんな見方を示した。

「当初、来年5月からと言われた『駆けつけ警護』の開始が11月からに延期されたのは、7月の参院選前に『戦死』者が出る事態を避けたかったからではないか。選挙さえ乗り切れば、いよいよ自衛隊が戦う条件が整う。イラク戦争のとき、政府はかなり抑制的で『無理をするな』という方針でしたが、安倍政権には『安保法制で解禁された武力を実際に使ってみたい』というムードが漂っている。現場はそうした空気に影響されるものです」

 大義のない戦いで、立場の弱い若い隊員たちが命を落としていく。そんな未来を、われわれは選択するのだろうか。

週刊朝日  2015年11月20日号より抜粋