そもそも認知症高齢者の場合、取引そのものの記憶を失っているケースが多く、自身で苦情を申し立てることすら困難だ。政府や国民生活センターの統計にカウントされていない事例は多数に上るとみられる。

 親など身近な人が被害に遭ったと気づいたら、一刻も早く家庭裁判所に申請し、「成年後見人」をつけることだ。被害回復したい場合、弁護士に後見人を頼み、提訴してもらうこともできるが、商品購入時に認知症などで判断力がなかったことを証明する必要がある。トラブルを未然に防止するには、認知症の症状が出たら、すぐにでも後見人をつけることをお勧めする。

 消費者庁は来年度予算で、高齢者の消費者トラブル対策などにあてる地方自治体への交付金を、昨年度比で20億円増額して概算要求したという。どれほどの効果につながるのだろうか。

 高齢者の金融商品トラブルに詳しい辰巳裕規弁護士はこう警告する。

「金商法は商品の説明・理解義務や適合性原則をうたっているが、所管の金融庁はよほどの問題でない限り、監督に動かない。お金を失った高齢者の経済的、精神的ショックははかりしれないが、訴訟をしても裁判所は大手金融機関の言い分を信用する傾向が強く、顧客の自己責任論に傾倒しがちだ。だが、高齢化が進展するにつれ、こうしたトラブルはますます増えるだろう。今後は高齢者保護の観点からより一層の規制強化はもちろんのこと、この問題に対する司法による救済のあり方が問われてくるのではないか」

(朝日新聞特別報道部・松田史朗)

週刊朝日 2015年11月13日号より抜粋