「家の改築をしたいので、お金をすぐ引き出したいということだけ男性に伝えていた。預金です」(女性)

 保険代理店の男性は家族の留守中に来ていたため、女性の家族も異常な保険契約に気づかなかったという。

「私ら家族がそばにいるのに、こんなにたくさんの保険に入っていたなんてびっくりした」と80代の夫は言う。契約を知ったのは保険契約の翌年に妻名義の保険の控除証明書が家に届いたからだ。夫はすぐに代理店の男性に連絡を取って事情を聞いた。

「男性と話をしたら、彼は『すぐに払い戻せますから』と説明した。しかし、弁護士に相談したら、払い戻すにはさらに多額の費用がかかるとわかった」

 家族の依頼を受けた弁護士がこの男性を問い詰めると「反省しています」と話した。商品を作った2社の大手保険会社も非を認め、かけた保険料は全額戻ってきたという。

「不招請勧誘」という言葉がある。商品を買う意思のない顧客に電話や訪問で商品を売ろうとする行為のことだ。これは金商法でも禁じられているが、対象は店頭販売の一部商品に限られ、証券取引所で扱う多くの商品は対象外となっている。

 07年に金商法が施行され、元本割れの可能性など重要事項の説明義務が金融機関に課された。その後も金融庁の監督指針は強化されている。だが、金融商品を巡るトラブルは高齢化の進展とともに相次ぎ、あとをたたない。

 頻発するトラブルを受けて13年、大手証券会社や銀行などを協会員とする日本証券業協会は、高齢者への金融商品販売について[1]国債など安全性が高く勧誘が許される商品とハイリスク商品など<注意が必要な商品>に分ける[2]注意が必要な商品には上司の事前承認がいる――などのガイドラインを定めた。ただ、ルールの詳細は各社が決めることになっており、認知症高齢者に特化した項目があるわけではない。

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