ジャーナリストの田原総一朗氏は、「原発反対」を主張するメディアは具体的な戦略を明示するよう政府に要求すべきだという。

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 10月26日、愛媛県の中村時広知事が、原子力規制委員会の審査に合格した四国電力伊方原発3号機の再稼働に同意した。これで、九州電力の川内原発に次いで、早ければ来春にも再稼働することになった。

 伊方原発の再稼働に対して朝日新聞、毎日新聞、東京新聞が「反対」の立場をとっている理由の一つは、万が一、事故が起こった場合の住民の避難経路が明確になっていないということだ。東西に長く伸び、急な崖が続く伊方の地形は、避難の際に原発の近くを通らざるを得ないというのである。

 また、川内原発では、同意手続き前に住民説明会を行ったが、伊方原発では住民への説明会がきちんと行われていないことも指摘している。

 もっとも、3紙はいずれも、川内原発の再稼働に批判的であった。つまり「原発反対」なのである。

 私自身、政府の原発政策は少なからず問題ありととらえている。例えば今年7月、経済産業省が「長期エネルギー需給見通し」を発表した。これによると、2030年度の電源構成は、原発が20~22%、再生可能エネルギーは22~24%になるという。

 だが、この基本計画には問題がある。30年度時点の日本国内の原発すべてを稼働したとしても、15%程度にしかならないはずである。それを20~22%にするには、廃炉まで原則40年という規制の例外措置として60年に延ばすか、あるいは新たな原発をつくらなければならないことになる。こうした大事な部分を政府は国民に公表していないのだ。

 
 また、小泉純一郎元首相が原発反対を打ち出した理由は、13年にフィンランドのオルキルオト島にある使用済み核燃料の最終処分場「オンカロ」を視察したとき、「オンカロ」で長期保有する使用済み核燃料が無害化するのに10万年かかると知ったためであった。

 だが、日本では、「オンカロ」どころか使用済み核燃料も、どの地域で保有し、どんな施設をつくるのかということもまったく決まっていないのである。

 政府は、原発についての総合戦略を定めてはいないようだ。

 民主党の菅直人首相の時代には、30年に原発が50%になると裁定されたこともあった。「夢の原子炉」と称された高速増殖炉もんじゅが、まったく見通しがつかなくなった今となっては、原発の将来展望は暗く、だからこそ、政府は具体的な総合戦略を策定して国民に理解できるように解決すべきである。

 各紙が、原発反対の姿勢を強めるのはよくわかる。

 だが「原発反対」という主張は抽象的すぎる。小泉元首相は、「原発即時やめるべし」と主張しているのだが、ということは、現状のようにエネルギーの90%近くを、石炭、ガス、原油などの火力依存でいけ、ということなのだろうか。

 現在、各電力会社ともに、少なからず使用期限が過ぎて、いつ故障が起きるかわからない発電装置を使用しているということは、小泉元首相はもちろん承知しているはずだ。それに、1万8千トンたまっている使用済み核燃料を、誰が責任を持って処理すると考えているのだろうか。

 おそらく各紙とも、原発の展望がわからなくて困惑しているのだろうが、ならば抽象的な「原発反対」の主張ではなく、政府の具体的な戦略を明示することこそを、いわば社運をかけて強く要求するべきである。

週刊朝日 2015年11月13日号

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田原総一朗

田原総一朗

田原総一朗(たはら・そういちろう)/1934年、滋賀県生まれ。60年、早稲田大学卒業後、岩波映画製作所に入社。64年、東京12チャンネル(現テレビ東京)に開局とともに入社。77年にフリーに。テレビ朝日系『朝まで生テレビ!』『サンデープロジェクト』でテレビジャーナリズムの新しい地平を拓く。98年、戦後の放送ジャーナリスト1人を選ぶ城戸又一賞を受賞。早稲田大学特命教授を歴任する(2017年3月まで)。 現在、「大隈塾」塾頭を務める。『朝まで生テレビ!』(テレビ朝日系)、『激論!クロスファイア』(BS朝日)の司会をはじめ、テレビ・ラジオの出演多数

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