「ふと、これぐらいなら私にもできるかも、と思いました」(山本さん)

 セミナーで講師をしていた高齢者住環境研究所の所長で、1級建築士の溝口千恵子さんに相談。2階建ての戸建て住宅のリフォームを決断した。

 玄関と階段、2階部分はそのままに、改修は1階に集中。リビング、キッチン、洗面所、トイレはバリアフリーにし、客間だった和室は洋室にして2階にあったベッドを下ろして寝室に。

 暖房にもこだわった。洗面所や風呂場、キッチンなどと、居室との温度差による「ヒートショック」(血圧の大きな変動で起こる健康被害)を予防するためだ。

 今までは暖房に石油ファンヒーターを使っていたが、灯油を補充してくれた夫はもういない。家全体が暖まりやすい蓄熱暖房を取り入れた。半年かけてリフォームは終了。費用は750万円ほどだった。

 それから5年。人生が一変した。寒い季節でもきびきびと動ける自分がいる。「昔はトイレに行くにも寒い思いをしましたが、今は真冬でも13度より下がらず快適です」(同)

 生活動線が良くなり、家事もずっと楽になった。余暇を楽しむ気持ちも生まれた。スケジュールは1週間びっしり埋まる。家でゆっくりするときのためにと、春先に購入した電子ピアノには、忙しくてまだ触れていない。山本さんは言う。

「最初は、この家を離れられないからと、消極的に選択したリフォームでしたが、『新しい人生をまた始められる』という気持ちに変わっていきました。この家にいると、亡くなった主人に見守られている安心感もあります。住み続けることができてよかった」

 改修を手掛けた溝口さんも、山本さんの変化を、

「依頼があった当時と、電話口の声が全く違う。本当に明るくなられましたね」

 と喜ぶ。

「リフォームをきっかけに、前向きな気持ちになる方は多い。使い勝手の悪い部分が改善することで、精神的なストレスが減ることも大きいようです」(溝口さん)

週刊朝日 2015年10月30日号より抜粋