作家の室井佑月氏は、政治的発言をした芸能人を孤立させず応援していく必要があるという。

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 10月15日号の週刊新潮、「『川島なお美』通夜でひんしゅくの『石田純一』が安保反対デモの後遺症」という記事に、石田さんのこんな発言が載っていた。

「テレビ番組を3つキャンセルされました。35年の芸能生活で、こんなのは初めてです。CMもひとつなくなったし、広告代理店を通して、厳重注意も2、3社から受けました。“二度と国会議事堂にデモに行くな”“メディアの前で政治的発言をするな”ってね」

 石田さんは9月17日の国会前デモに参加し、スピーチをした。その結果としての発言だ。

 石田さんは頭の良い人だし、その後、どんなことになるか多少は予測していたはずである。なのに、彼ほどの有名人が、堂々とデモに出てスピーチまでして、あたしは立派だと思った。

 それにしても、週刊新潮の記事に関しては疑問がある。石田さんに「二度とデモに行くな」「メディアの前で政治的発言をするな」、そう厳重注意をした会社や、広告代理店を調べて告発するのが、正しい報道の在り方じゃないの?

 週刊新潮の書き方は、まるでほかの芸能人がこれから先、政権批判をしないよう、見せしめのようだった。

 この国は憲法で言論の自由が守られている。それは、国家から咎められることなく、個人は自分の意見を表明していいということだ。

 権力の監視役でもある報道機関が、なぜ権力側から叱られた個人を叩くのか。

 
 こういうことに関して、もう黙っていてはいけないと思う。勇気を出した石田さんを孤立させちゃいけない。

 安倍政権になってからというもの、政権批判をしようものなら、なぜか統率の取れたぶっ叩きにあう。テレビ局やそのスポンサー企業に電話してきたり、捏造をともなった悪口をネットで拡散されたり。今まであまり政治的発言をしてこなかった人が、いきなりこれをやられたら怖いと思うに違いない。

 あたしたちはサザンオールスターズを、萎縮させてはいけなかったんだと思う。去年の紅白歌合戦でサザンの桑田さんは、ヒトラーみたいなちょび髭を付け「ピースとハイライト」を、「都合のいい大義名分(かいしゃく)で争いを仕掛けて 裸の王様が牛耳る世は…狂気(Insane)」と歌った。閉塞感が広がりつつある世の中で、カメラの前でこういうパフォーマンスを見せてくれたサザンに、胸がスカッとした人も多かったろう。

 一部の人たちがしつこく彼らを罵っていたが、それに負けちゃいけなかった。こっちも「サザン、最高!」と思っているだけじゃなく、行動すればよかったよ。応援してるって、ツイッターで拡散したり。

 そしたら今頃、サザンは、フリーハンドであたしたち国民の声を格好良く代弁してくれていたかもしれない。ほかの影響力のある芸能人もそれにつづき、さすがにマスコミの姿勢も変わっていたかも。

週刊朝日 2015年10月30日号

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室井佑月

室井佑月

室井佑月(むろい・ゆづき)/作家。1970年、青森県生まれ。「小説新潮」誌の「読者による性の小説」に入選し作家デビュー。テレビ・コメンテーターとしても活躍。「しがみつく女」をまとめた「この国は、変われないの?」(新日本出版社)が発売中

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