「私の母といっしょに住んでもいいのか、高齢者ホームに入るほうがいいのか、お義母さんに聞いてね」と言うと、夫は「わかった」と言ってくれました。が、3日たっても1週間たっても1カ月たっても聞いてくれない。「聞いてくれた?」と詰め寄ると、「わかってるよ」と言う。わかってるのはわかったけれど、これではラチがあきません。私は私で動きました。太田の親戚たちに、個別に相談したのです。

 彼らは口をそろえて、「同居は無理」と言います。「今まで別々に生活してきた他人が、80歳を過ぎて同居してうまくいくはずがない」と。

 おっしゃるとおり。

「親戚の人こう言っているけど、お義母さんに聞いてくれた?」と迫ってみても、やはり「ちょっと待って」と言うばかりで何も進みません。

 だんだん私も気づいてきました。彼は「聞かない」のではなくて、「聞けない」のだ。母の老いと正面から向き合うことが怖いのだ、と。

 そんなとき、タイタンの所属であり義母の主治医でもあるドクターから連絡がありました。

「太田さんのお母さんから伝言です。『息子にまかせていたらラチがあかないので、光代さんに一任します。どこかいいホームを見つけてください』とのことです」

 義母は全部わかっていました。親戚の方もそれとなく伝えてくれていたんでしょうね。そのきっぱりした姿勢に、頭が下がる思いでした。

 決まったら、あとは動くだけです。ホームを探す条件は、わが家から近いこと、ホーム内の人間関係がいいと感じるところ。「新しいホームが建つ」という情報が入ったので、さっそく何軒か見に回りました。そのうちの一軒に私はひと目ぼれ。角部屋で、日当たりのいい2階の部屋。新築だからきれいだし、何より一斉に入居するのもいい。勝手なイメージですが、あとに入居すると肩身が狭いんじゃないか、なんて余計な心配をしていたもので。

「よし、ここ」と決めてから、夫と義母も見学に行きました。さらに体験入居をしてもらった結果、義母も「入居したい」と言ってくれました。14年の2月のことです。

週刊朝日  2015年10月23日号より抜粋