作家の室井佑月氏は、アメリカでの安倍晋三首相の発言について、こういう。

*  *  *

 ある高校の校長先生が、「将来の夢はお金持ち」

 という子が増えてきていると嘆いていた。

 あたしも10代の頃は、そんなもんだった。が、そうはっきりいうのは、躊躇(ためら)われるような空気があった。誰が教えてくれたわけでもないが、金を目的とする生き方は恥ずかしいと。

 今の子どもたちが素直になったのか、それとも世の中が変わったのか。

 安倍首相は9月29日、米ブルームバーグ本社で講演し、

「一にも二にも三にも、私にとって最大のチャレンジは経済、経済、経済だ」

 そう熱く語った。経済通信社での講演だから普通のことなのかもしれないが、あたしはこのニュースを聞いたとき、恥ずかしい気分になった。

 金を集めなにをしたいかではなくて、金を集めたいという話であったことが。

 そして、安倍さんはその翌日の30日、NYの国連総会の一般討論演説で、シリア難民支援に約8億1千万ドル(約972億円)を提供するとぶちあげた(このほかにも、中東・アフリカの紛争地域の復興支援にも約7億5千万ドル<約900億円>だって)。

 シリア難民の数は400万人を突破。正義感から欧米諸国が次々に受け入れをしているのに、日本が認定したシリア難民はたった3人。そしてまた、このことについて質問が出ると、安倍首相は、難民と移民と日本の人口問題をごっちゃにした長ったらしいはぐらかし答弁をした。安保の国会審議で味をしめたのだろうか。あたしがさらに恥ずかしくなったのはいうまでもない。

 
 安倍さんやそのお仲間は、国際貢献やこの国の平和を維持するためには、「日本は金を出すだけでいいのか」と、よくそんなことをいう。けど、あなたたちが今している外交とやらも、あたしにはそういうものに見える。自分の金でもない金をばらまき、自分らだけ尊敬された気分になるのが外交か?

 それに、彼らの「金を出すだけで」という言い分により、この国は他国の戦争に参加することが可能になってしまった。

 国際貢献や世界平和を訴えるなら、安保法制など成立させず、難民を受け入れた方が良かった(テロの危険など考えると、難民受け入れは難しくなったように思う)。この国がそっちの決断をしたのなら、一国民として、あたしは誇らしい気分になった。

 この国は人殺しの道具の武器まで売って、金を稼ぎたい国になってしまった。もちろん、それでいいという人もいる。

 しかし、みんなほんとにちゃんと考えないと。安倍さんが講演でいっていた、「世界で最もビジネスしやすい国を目指して、改革を断行する」ということは、この国の99%の人間が、低賃金で奴隷のように働くということではないか?

「夢は金持ち」。そういう子どもに、「いやいや、金持ちは世襲だから」と教えなきゃいけなくなる。

週刊朝日  2015年10月23日号

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室井佑月

室井佑月

室井佑月(むろい・ゆづき)/作家。1970年、青森県生まれ。「小説新潮」誌の「読者による性の小説」に入選し作家デビュー。テレビ・コメンテーターとしても活躍。「しがみつく女」をまとめた「この国は、変われないの?」(新日本出版社)が発売中

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