個人投資家が魅力に思うのは株価の割安さだけではない。配当利回りの高さだ。

 日本郵政とゆうちょ銀行の16年3月期の配当利回りは1.7~1.8%程度と、東証1部市場の平均と同水準だが、両社は来期、配当性向をほぼ2倍に引き上げると公言している。

「仮に売り出し価格が想定売り出し価格の水準で決まると、17年3月期の配当利回りは、日本郵政が3.2%、ゆうちょ銀行が3.1%、かんぽ生命が3.3%程度になります。株の売却益でもうけるのではなく、配当金狙いでも投資する価値があります」(杉村氏)

 今、100万円をメガバンクのスーパー定期(1年もの)に預けても、金利はわずか年0.025%(税込み)。配当金に換算すると250円しかもらえず、さらに税金が引かれる。これに対して、3社のいずれかの株を買えば、税込みで約3万円の配当金がもらえる皮算用だ。

 金利差120倍以上ならば、タンス預金で眠らせておくのはもったいないと、多くのシニアたちがうごめいている。主幹事の野村証券広報部によると、同様の説明会は10月上旬にかけて全国12カ所で行われ、1840人が集まったという。

 3社による親子同時上場や、証券会社90社が販売するのも、過去に例を見ないと言うのは、金融情報サイトなどを手がける東京IPO元編集長の西堀敬氏。

「“目論見書”を見ますと、今回の3社の売り出し額は約1兆1400億円規模。これは昨年の新規株式公開(IPO)による調達総額に匹敵する額で、スケールの大きさがわかります」

 目論見書とは、株を売り出す際の条件や、発行する企業の財務内容や事業の理念を説明したもの。

 現在3社の株式は、日本郵政は政府が100%保有、ゆうちょ銀行とかんぽ生命の株式は、日本郵政が100%保有している。政府は最終的に3分の1超を残して日本郵政株を売却。22年度まで3回に分けて計4兆円分を放出すると見込まれている。

 日本郵政は、日本郵便を100%子会社化する一方で、子会社ゆうちょ銀行とかんぽ生命の株を早期に売却させる計画という。

「今世紀最後にして最大」と言われているように、政府が放出する株の国内販売分の95%を個人向けに販売する。

 個人マネーを“貯蓄から投資へ”と向かわせるべく、50万人、100万人以上の個人投資家が誕生すると言われている。

 日本中の証券会社を巻き込んだ、国家の一大イベントなのだ。

週刊朝日  2015年10月23日号より抜粋