船岡温泉マジョリカタイルの装飾の壁と京の祭りにちなんだ彫刻が脱衣場を取り囲む(撮影/写真部・馬場岳人)
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船岡温泉
マジョリカタイルの装飾の壁と京の祭りにちなんだ彫刻が脱衣場を取り囲む(撮影/写真部・馬場岳人)
天狗の彫刻が入浴客を見守る。欄間の彫刻は上海事変がモチーフ(撮影/写真部・馬場岳人)
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天狗の彫刻が入浴客を見守る。欄間の彫刻は上海事変がモチーフ(撮影/写真部・馬場岳人)

 唐破風(からはふ)の玄関、木製のロッカー、和製マジョリカタイル。古都には、大正ロマン、昭和モダンの風情をとどめる“お風呂やさん”が少なくない。懐かしさが募る空間で湯に揺蕩(たゆた)えば、心まで解きほぐされる。

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「おいでやす。おおきに」

 暖簾をくぐると優しく迎えてくれる。京都には大正から昭和初期建築の銭湯が今も残る。

 当時の民家には内風呂がなく、風呂屋通いが当たり前だった。他の都市では昭和30年代をピークに急速に廃れた銭湯文化だが、第2次大戦時の空襲被害を免れた京都には古い建物が残り、比較的長く息づいているという。

 ここではみな、銭湯と言わず、親しみを込めて「お風呂やさん」と呼ぶ。その9割が利用するのが上質の軟水の地下水だ。人々は集い、やわらかな湯に手足を伸ばす。湯上がりは“ほっこり”の京都弁がよく似合う。

 最盛期に600軒を数えたお風呂やさんも、高齢化や建物の老朽化の波には抗えず、今では100軒余りに。一方で、最近は外国人旅行者や観光客に人気だという。柳湯の中谷力さんは、

「古うなったけど、いろんな方が来てくれはるので、なんとか残していきたいですわ」

週刊朝日 2015年10月16日号