「そう言われてみれば、そうだった。エルヴィスはいろんな人から批判されたりもした。初期のころ宗教団体から辛辣な批判を受けたこともあった。彼のパフォーマンスが、セックスを強く示唆していると。彼の歌が10代に悪影響を与えているとさえ言われた。だからエルヴィスのお母さんは、そんな記事の載った新聞をエルヴィスが見ないように隠したりしたものだったわ。彼自身は、そんなつもりはなかったから。音楽に合わせて踊っているだけで。エルヴィスは軍隊に入隊した直後にそんな優しい母を亡くした。また軍隊から帰ってきたとき、自分のバンドが彼のことを待っていてくれるのだろうかと心配した。エルヴィスは人気が最高潮のときに入隊し、兵士としての任務を国のために遂行した。軍隊から帰還したとき、そのおかげで人々はエルヴィスのことを、真剣に受けとめるようになった。入隊したおかげで国民からの反応がすっかり変わったの。1968年のカムバック・スペシャル番組をやったとき、彼はひどい不安に襲われたわ。エンターテイナーとして自分はまたやれるのかと、心配した。長い間、観客の前でパフォームしなかったから。それはそれは、ナーヴァスだったの。それだからこそ、あの夜の観客の熱い反応に、とても感激していた」

――あなたはエルヴィスの晩年、彼と離婚しましたが、全盛期をパートナーとして支えました。彼は多くのシンガーも支援したようです。

「音楽はエルヴィスにとって人生の源だったの。だからこそ人々は彼の歌を理解できたのだと思う。例えば“イフ・アイ・キャン・ドリーム”にしても、彼の世界平和に対する切実な思いが込められている。彼には偏見がなかった、心から平和を望んでいた。また私生活では才能ある若いエンターテイナーが出てくれば、彼らを心から応援した。そんな彼の人柄をファンも知っていた」

(音楽ライター・高野裕子)

週刊朝日 2015年10月9日号より抜粋