「これまでも、生と死をテーマに扱うことは多かったし、死者を映像として表現するのは好きです。でも僕自身、“死んだらどうなる?”とか始終考えているわけではない。ただ、映画でなら、“こんなことが起こったらどうする?”の“こんなこと”を、頑張れば表現できる。それが、世の中で“作品”と呼ばれるものの、無責任な強みなんだと思います」

 作品が持つオリジナリティーが、今回の賞につながったことは間違いないが、監督自身は、自分の個性を意識したことはないようだ。

「一般には知られていないようですが、映画監督の非常に大きな役割の一つが、時間内に撮影を終わらせることなんです。監督は、やりたいことをやってわがままを通す人だと誤解されている人も多いかもしれません。でも周囲の意見を聞きつつ、『これでいきましょう』と決断することが一番大切。みんながやりたいことをやっていては、いつまでも終わらないから、監督が終わらせるんです。僕は、普通の、オーソドックスな、真っ当な映画を作りたい。誰かに、『監督の作品って変わってますね』と言われたら、『あなたが普通だと思っている映画が変わっているのであって、僕の映画はいたって普通です』と答えます(笑)。映画100年の歴史をみても、僕の撮り方は、ごくごくオーソドックスなほうです。今は、生真面目に真っ当なことをやっているのが個性だと映ってしまう時代なのかもしれないですね」

週刊朝日 2015年10月9日号