「母が目を離したすきに、夕方から車で出かけてしまって、捜索願を出しました。当時、私は両親と離れて暮らしていたのですが、母からの連絡でかけつけ、一緒に捜しました」

 夜の11時半すぎにふらりと帰ってきた父に、「どこに行っていたの?」と聞くと、「わからない」と答える。

 車で徘徊した翌日、これ以上、説得してもらちがあかないと思った女性は父を食事に連れ出し、そのまま警察署に向かった。

「父は抵抗せず返納の書類にサインしました。車も処分しました。後に『俺の車はどうした』と聞くことはあっても、時間が経つと、運転していたことも忘れるようで、そのうち車のことをしつこく聞かなくなりました」(女性)

 同センターのように、医療機関や行政をつなぐ場所を増やすことが急務だろう。

 男性がしたような運転操作のミスは、MCIに気付くシグナルになる。

「MCIのレベルであれば運転はしても構わないと思いますが、医師の診断を受けるきっかけにしてほしい」(北村氏)

 いずれにしても専門医との綿密な相談が必要だ。

 家族も状態を認識し、その結果、運転を続けられるのか、運転をあきらめたほうがいいのか判断する。それが高齢者による事故をなくす一歩になるはずだ。

■車を運転するときMCIかチェック
以前と比べて、変化したと思われる項目をチェックしてください

・車のキーや免許証などを捜し回ることが増えた
・曲がる際にウィンカーを出し忘れることが増えた
・何度も行っている場所への道順がすぐに思い出せないことが増えた
・車庫入れで壁やフェンスに車体をこすることが増えた
・駐車場所のラインや、枠内に合わせて車を止めることが難しくなった
・急発進や急ブレーキ、急ハンドルなど、運転が荒くなった(と言われるようになった)
・車の汚れが気にならず、あまり洗車しなくなった
・洗車道具などきれいに整理しなくなった
・好きだったドライブに行く回数が減った
・同乗者と会話しながらの運転がしづらくなった

3つ以上の項目にチェックが入る人は要注意。病院への受診を検討してください。浦上克哉著『認知症の新基礎知識』(JAFMATE社)から

週刊朝日 2015年10月2日号より抜粋