八尾自動車教習所の高齢者講習では、機器の使い反応の速さや正確さを測る(撮影/写真部・東川哲也)
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 京都市で2011年2月、痛ましい事故が起こった。乗用車を運転していた60代の男性が、意識を失って信号待ちの車列に追突。6台が玉突きになり、バイクの男子大学生が2カ月後に死亡、12人が軽傷を負った。男性は08年ごろに認知症と診断され、医師から運転をやめるように忠告を受けていたという。

 車に同乗していた男性の兄夫婦が診察に立ち会っていたことから、京都府警は11年9月、男性を自動車運転過失致死傷の疑いで、兄夫婦を、運転を止める注意義務を怠った重過失致死傷の疑いで、それぞれ書類送検した。家族の責任が問われ、介護を担う全国の家族に衝撃が走った。

 相次ぐ高齢ドライバーによる悲惨な事故。警察庁によると、国内の交通事故の件数は、04年の約90万件から10年間で約54万件まで減少している。その一方で、65歳以上の高齢者による事故件数は、9万4817件(04年)から、10万1855件(14年)に増えている。

 高速道路6社の今年4月の発表では、11~14年に発生した逆走事故は739件。65歳以上の高齢者による事故は7割。運転者の状態を調べたところ、認知症の疑いがみられたのは、約1割だった。

 高齢者の運転に詳しい、月刊誌「JAF Mate」の鳥塚俊洋編集長が言う。

「逆走事故はイコール認知症の人が起こすもの、というイメージがありますが、1割という数字を見ると、そんなに多くはない。事故は高齢になると誰にでも起こり得るのです」

 実際、認知症でなくてもこんな例もある。

「ブレーキとアクセルの踏み間違いなんかしょっちゅうある」

 と、高笑いするのは、大阪府八尾市に住む男性(81)。

「毎日、朝と夕、家から畑まで2キロぐらい軽自動車を運転しているけど、慣れた道でも怖い思いをしたことは何度もあるね。この前なんか、自転車に乗っている子どもにぶつかりそうになっても、とっさにブレーキが踏めなかった」

 男性は免許更新にあたって、「八尾自動車教習所」(八尾市)で行われている「高齢者講習」に参加した。高齢者講習では主に、講義やビデオなどで交通ルールを再確認するほか、機器を使って、判断の速さや正確さ、動体視力や夜間視力、視野などを測る。そして、車を実際に運転して、指導員から運転行動についての助言を受ける。

 男性は検査に問題はなかったことから免許は更新するというが、「さすがにこれが最後かな」と話した。

 同教習所地域安全推進課の浅田克子課長が言う。

「講習会等でご高齢の方が運転する車に同乗すると、本人は一時停止したと思っていても、実際は止まっていないことがよくあります。交差道路から接近する他車に気が付かないで、そのまま進む人もいます」

 運転技術の低下はなかなか自覚されていないのが実態だ。

週刊朝日 2015年10月2日号より抜粋