「男性ホルモン」補充が有効?(※イメージ)
「男性ホルモン」補充が有効?(※イメージ)

 筋肉の減少を指す「サルコペニア」。筋肉が減ることで、転倒による骨折などさまざまなリスクにつながり、認知症にも関連があるといわれる。

 千葉県に住む玉置一郎さん(仮名・80歳)は、軽度の認知症で抗認知症薬を使用していた。そんな2006年5月のこと。自宅で転倒し、すねの骨を骨折。車いすで生活を送ることになった。

 近所のクリニックを受診すると、運動量の激減に加えて抗認知症薬の副作用による食欲減退を危惧した主治医が、従来の薬の使用を中止。その結果、食欲が戻り、認知症の症状も改善の兆しを見せ始めた。

 すると玉置さんは、医師にこう相談した。

「私は男性ホルモンが低いのではないか」

 あとでわかるのだが、認知症状が軽快するに従い、玉置さんは性機能の改善に期待するようになっていたのだ。調べると男性ホルモンであるテストステロン値は7.5だった。ホルモン補充療法開始の目安である8.5を下回っていたため、テストステロンエナント酸という注射薬の投与を始めたところ、半年後にはテストステロン値は14.0まで改善。男性機能も復活した。それと同時に50キロ前後だった体重は55キロまで増加し、しかも内臓脂肪の量には変化がなかったという。

 クリニックで玉置さんの治療に協力していた、東京大学病院副院長で老年病科教授の秋下雅弘医師は、次のように分析する。

「内臓脂肪が増えずに体重だけが増えたということは、筋肉量が増加していることを示唆します。テストステロンの投与前後に筋肉量を測っているわけではないので断定はできないものの、転倒から骨折という経緯を見る限り、テストステロン投与開始前はサルコペニアかそれに近い状態だったことがうかがえます。本人がテストステロンを使いたいと言った目的が性欲回復だったとはいえ、結果としてそれがサルコペニアを改善する『副作用』を見せた、典型的なケースといえます」

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