作家・北原みのり氏の週刊朝日連載「ニッポンスッポンポンNEO」。北原氏は、他人にアピールしたがる“イクメン”夫をこう見る。

*  *  *

 先日、女友だち数人と飲んでいた時のこと。うち一人のケータイが頻繁にバイブし、その度にケータイをチェックしているので、どうした? と聞くと、「夫から息子(2歳児)のことで、LINEが入る」と。「既読にしないと電話がくるかもしれないから、見てる」と、心からイヤーな感じで言って、内容を見せてくれた。そこには、「今、ご飯食べさせた」「これからお風呂入れるところ」「お風呂入れたよ。頭も洗ったよ」「これから寝かせるね」と、いちいちの報告メールなのだった。

 友だちが複雑な顔をして言う。「夫に悪気はないんだけど、『ありがとう』を期待してるんだよね。で、ありがとうって、素直に言っちゃえばいいことは、頭ではわかるんだよね。でも、どうしても、言いたくないの」。わかるよ~! と女たちは口を揃えて言う。父親だろ? なぜ自分の息子の世話をするのに、いちいち報告してくる? しかも友だちと飲んでいる妻にLINEしてくる? 何がしたい? 褒めてもらいたいのか? 子供か!? 

 そんな話から女たちは一気に、育児する夫の話になる。今どき育児に関わらない夫は論外だとして、育児に「協力している」という姿勢を崩さない父親がいかに多いことか!

「家族でお出かけした帰り道、子供が寝ちゃったから夫が抱いたんだけど、途中で『疲れた』って言って、道の真ん中で立ち止まるんだよ? 仕方ないから『もう少しだから、頑張って!抱っこしてくれてありがとう!』って、夫をあやしながら帰ったよ!」

 
「おむつの替え方を一回注意したら、『君が僕のやる気をなくさせた』とか言って、それ以来、やろうとしないんだよね」

「他人にアピールしたがるんだよね。お皿洗ってるとか、保育園に連れていってるとか。で、『すてきな旦那さんですね』って私が言われるんだけど、その時の彼の誇らしげな顔にいらつく」

 そんな話が次々に出てくる。家事育児を全くしない夫に対する愚痴は過去のもの。今は、家事をするイケてるボクの自尊心の取り扱いが、女を苦心させている。男を手の平の上で転がすように、叱咤激励しながら「使う」のが「賢い女」だと、男たちは言いたがる。女たちだって、わかってる。夫を褒めれば、きっともっと「協力してくれる」ことも。でも妻が求めているのは、夫の「協力」なのか? そんなモヤモヤを抱えながら、それでもその葛藤や苛立ちを全て言葉にしてしまったら、何かが壊れるような気がするから、妻たちは言葉を呑み込み、夫に対して5回に1回はありがとう、すごいね、助かってるよ! と声をかけることで折り合いをつけるのだ。

 結局、LINEでいちいち育児報告をしてきた夫に、妻はその都度の返信はしない、ということで気持ちを収めていた。その夜、帰宅してから一回だけ「今日はありがとうね」と言うと、夫は大満足な顔をして、「まぁ大丈夫だよ」と機嫌よくお休みになられたそうです。

週刊朝日  2015年10月2日号

著者プロフィールを見る
北原みのり

北原みのり

北原みのり(きたはら・みのり)/1970年生まれ。女性のためのセクシュアルグッズショップ「ラブピースクラブ」、シスターフッド出版社「アジュマブックス」の代表

北原みのりの記事一覧はこちら