マイクロ回線の問題は、過去に自民党の国防部会で何度か議題になったこともある。

 それでも防衛省が古い通信手段にこだわる理由を、防衛省の通信システム幹部はこう説明する。

「東日本大震災のときには、民間の通信回線が使えなくなったことがあった。自衛隊が、通信を求められているときに『断絶しました』とは言えない。容量は小さくても、非常時の備えが必要で、マイクロ回線を完全になくすのは難しい」

 だが、通信の専門家はこれにも反論する。

「マイクロ回線は高い山の上に中継局を置くので津波には強いかもしれないが、雷や風雨には決して強くなく、影響を受ける可能性がある。東日本大震災のときに防衛省のマイクロ回線が切れなかったのは偶然の産物で、警察、国交省のマイクロ回線には障害が起きています」

 マイクロ回線は安全面でも問題があるという。

「何よりも、アンテナが露出しているマイクロ回線は外敵から狙われやすくテロの標的にもなる可能性があります。また、防衛省のマイクロ回線は、警察や国交省のようなう回路がないので、どこかで障害が発生すると全体が機能しなくなります。非常時の備えにならない上、通信の品質が劣るので、最新のセキュリティー技術を導入することも難しいのです」(同)

 抜本的な変革か、現状の維持か。ここまで議論が割れるのはなぜか。防衛大臣経験者はこう解説する。

「マイクロ回線についての議論は以前からあり、古い技術を使っている、天下り先を守るためではないか、と指摘されていることも理解している。だが、予算の制約もあり、現段階では効率的に整備できる他の通信手段がない。仮にグローバルホークが収集したデータをマイクロ回線で送らざるをえないときは、データ量を小さくするなどして対応するしかない」

 防衛省は安保法制をにらみ、東シナ海や南シナ海におけるさまざまな有事のシナリオを想定している。来年度予算の概算要求でオスプレイ12機やイージス艦1隻などの配備も計画中だ。

 その陸海空自衛隊の新しい統合運用を実現するために、防衛省各幕僚間を結ぶ「データリンク構想」も同時に進めている。だが、肝心の通信ネットワークが脆弱では、いくら優れた戦略的構想も絵に描いたモチになりかねない。防衛問題に詳しい自民党議員は、危機感を隠さない。

「近未来の兵器システムで通信量が飛躍的に増加することは何年も前からわかっていた。なのに、防衛省はグローバルホークが導入されることが決定してから対策を始めた。すべてが後手後手に回っている。自衛隊の中枢機能である通信インフラをどう構築するのか、というグランドデザインをきちんと考えていないから、こういう事態になる」

週刊朝日  2015年10月2日号より抜粋