仕事をすればするほど本や資料は増えていく。「この撮影のために少し片付けました」と林さん(撮影/写真部・大嶋千尋)
仕事をすればするほど本や資料は増えていく。「この撮影のために少し片付けました」と林さん(撮影/写真部・大嶋千尋)

『マイストーリー 私の物語』は、自費出版をめぐる小説だ。

【林真理子さんの書斎拝見】

 物語の柱の一つ、女性作家と母親の物語は、林真理子さん自身の経験が下敷きになっている。6、7年前、母に「私も作家になりたかった。マリちゃんよりすごい作家になったかもしれない」と言われた。娘の成功を喜んでいるとばかり思っていた母が、90歳を超えても書くことへの執念を抱いていたことに驚いた。「『書きたい』という思いは、それほど強く人の心にあるのか」

 二つ目の柱は、死んだ夫の人生を本にしたいという女性と、担当編集者の恋愛。林さん自身もドキドキしながら書いたという“濡れ場”は、新聞連載時の読者の反響も大きかった。

 登場人物が語る「物語」は、どこまで真実かわからない。人は自分について、都合のいいことしか語らない。しかし、原稿から滲み出る自己顕示欲が、それぞれの本音を浮かび上がらせ、秘密を曝していく。

週刊朝日  2015年9月25日号