トップチームが混戦しているセ・リーグ。優勝へのキーポイントは「エース」だと、東尾修元監督は分析する。

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 ソフトバンクが優勝へのカウントダウンを開始しているパ・リーグと違い、セ・リーグは阪神巨人ヤクルトが激しく競り合っている。広島も優勝は難しいかもしれないが、3位以内に入る可能性は十分ある。120試合以上消化しても、ここまで差がつかないのだから、最後まで優勝争いがもつれる可能性は高いよな。

 本来、優勝するチームというものは春先からいろんな戦力を使いながら、夏を過ぎたところで戦い方が固まってくる。打順、先発ローテーション含めて、新しい力がこれから出てくるとは考えられない。3連覇中の巨人は、この時期になっても4番を日替わりにしたり、序盤から捕手に代打を出したりと、試行錯誤を重ねている。これだと最後まで戦い方が定まらないだろうから、どうやって目の前の1勝をもぎとるか策を巡らすしかない。巨人は原監督の采配が優勝への大きなウェートを占めると思うよ。

 阪神はクローザーの呉昇桓につなぐまでの中継ぎ陣に不安があるし、打線も試合によって波がある。ヤクルトは川端、山田、畠山と中軸の破壊力は抜群だが、先発陣が弱い。打力中心のチームは、一度歯車が狂うと大型連敗につながる可能性がある。どこまで勢いで勝ちを拾えるかだ。

 以前、このコラムで、シーズンの優勝予想をする上での基準に「救援陣の充実」を挙げた。だが残りの期間での勝敗となると話は別だ。

 最後の最後で相手を上回る1勝、負けられない天王山での1勝、ということを考えた場合は「エース」に着目したい。巨人・菅野智之、阪神・藤浪晋太郎。ヤクルトはあえて挙げるなら小川泰弘か。菅野、藤浪は当然のように中4日前後で回る時が来るだろう。エース対決となる試合も出てくるだろうし、中4日でも球威が落ちない馬力も重要になる。

 
 その観点からいけば、藤浪の充実度が光る。菅野も素晴らしい投手だが、藤浪は昨年よりも直球の球威が格段に増している。シュート回転でなく、縦回転でスピンの利いた球を投げられているし、中4日で投げても終盤まで球威が衰えない体力がある。一方、菅野は良い投球をしていても、ここぞの場面で打たれるケースが目立つ。いずれにせよ、エースが投げた試合の勝率が最終順位に影響してくる。

 戦力以外のファクターも見なければいけない。どれだけ本拠地での試合を残しているかも重要だ。9月は台風などの影響も出てくるだろうし、屋外球場を本拠地に持つヤクルト、阪神は雨天中止もあるだろう。最後の数試合を本拠地で戦えるとなれば、有利になる。上位にいる3チームは、当然のようにホームゲームでの勝率は高い。

「10.19」で知られる1988年。近鉄がロッテとのダブルヘッダーで連勝すれば優勝するという局面だったが、場所はビジターの川崎球場だった。それまでの対戦成績は、近鉄が17勝6敗1分と圧倒。モチベーションの面でも、最下位だったロッテとは大きな差があったが、1勝1分に終わり、西武が優勝した。

 ファンからすれば「最終戦で勝ったほうが優勝」という展開が楽しい。選手は大変だろうが、何事にも代え難い経験を手にできるよ。

週刊朝日 2015年9月18日号

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東尾修

東尾修

東尾修(ひがしお・おさむ)/1950年生まれ。69年に西鉄ライオンズに入団し、西武時代までライオンズのエースとして活躍。通算251勝247敗23セーブ。与死球165は歴代最多。西武監督時代(95~2001年)に2度リーグ優勝。

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