東山:できそうにないし、僕、本が売れない時期が長かったので、今は少しでも宣伝になればと取材に応えているんです。だからバラエティーは違うかなと。今のこの狂騒は不整脈のようなもので、早く落ち着いて自分の書きたいものに取り組みたいという気持ちです。

林:島田雅彦さんが、又吉さんの『火花』の選評で、「今回の『楽屋落ち』は一回しか使えない」とか書いてましたけど。

東山:そうなんですか。

林:又吉さんは自分がいちばん知ってる世界を書いちゃったから、次が大変というのはあるかもしれませんね。東山さんは、デビューして何年ですか。

東山:2003年だから、12年です。

林:直木賞はそこが強いところで、受賞した時点でかなりのキャリアがあるから、受賞作一冊で終わりということは、まずないんですよね。

東山:でも僕、この本に関してはそういう恐怖があるんです。又吉さんと同じように、自分がよく知っている世界を書いちゃったから、ずっとこの路線でいくとすぐダメになると思います。

林:でもさ、これ以上のものを書けなくてもいいじゃない。これだけのものが書けたんだから(笑)。

東山:エ~ッ! それがコワい(笑)。

週刊朝日 2015年9月18日号より抜粋