週5回、訪問介護を行う千福さん(撮影/写真部・東川哲也)
週5回、訪問介護を行う千福さん(撮影/写真部・東川哲也)

 昨今、介護現場での人手不足が問題視されているが、80歳前後の「働き手」が在宅や施設で活躍中だ。

「わたくしもあと100歳まで2年くらいでしょう、その間にもいろんなことがあって。(昔の出来事を)よく思い出すんです。こうして、たくさんの方がいらしてくれるから、収穫があります。毎日、楽しいですね──」

 8月のある昼下がり。クーラーの利いた部屋で、思い出話に花を咲かせるのは、大阪府豊中市内でひとりで暮らすイクさん(仮名・98)。

 ミッションスクールで学び、ピアノを習った幼少のころの思い出をぽつり、ぽつり語り始めた。

 イクさんの話にじっくり耳を傾けるのは、千福幸子(せんぷくゆきこ)さん(80)。茶飲み友達ではない。部屋の掃除、買い物など、身の回りの世話をする現役ヘルパーだ。

 シニアがシニアを介護する「老老介護」というと、大変という印象を持つが、シニアだからこそ相手の気持ちがよくわかるといった利点がある。

 千福さんがイクさんの家に行くのは週1日。イクさんが好きな水色のエプロンを身につけて作業を開始する。まず、介護の記録に目を通す。イクさんの体調を確認。食事の希望を聞き、近所のスーパーに買い物に行く。次に床の掃除、台所は排水口まで手を伸ばし、整理整頓する。

 家事支援が中心のケアを終わらせ、業務終了後の10分は会話の時間だ。ふたりが最も楽しみにしているひとときだ。

「仕事の内容は決められているので、手際よく仕事を終わらせた後、10分間でも、おしゃべりの時間にあてています。若い人のように、てきぱきとでけへんけど、相手の心に寄り添うことでは誰にも負けへんで。みんな年いったら話を聞いてもらいたいのよ」

 そう笑いながら話す千福さんが目指しているのは“心のケア”だ。

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