作家の室井佑月氏は、自身も参加した大規模国会デモがまともにメディアに取り上げられていないことに憤慨する。

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 8月30日、安全保障関連法案に反対する国会前デモにいってきた。デモに参加するのははじめてではないが、こんなに多くの人々が集まるのをはじめて見た。

 帰りは有楽町方面まで歩いた。国会前から日比谷公園まで、大げさではなく、プラカードや団扇を持った人が鈴なりだった。

 参加者は主催者によると、国会周辺12万人、霞が関などの周辺地域を含めてのべ約35万人。警察発表では国会前だけで約3万3000人だとか。

 警察発表は嘘だわ。だって、それ以上が集まったといわれるデモにもいったことがあるけれど、30日の5分の1くらいだったと思うよ。

 ほかにも全国各地で、300カ所以上のデモやイベントなどが行われていたそうだから、デモに参加できない人や、声をあげられない人を含めれば、いったい、国民の何人が安倍・安保に反対なのだろう。

 なのに、ニュースではちょろっと扱うだけに留まる。翌日の情報番組ではどの程度、放送した?

 去年の香港の反政府デモや、2010年から12年にかけてのアラブ各国で行われた反政府デモ「アラブの春」は、枠を取ってきちんと放送したくせに。この国のメディアは、どこの国の人に向けて放送しているの?

 どこの放送局、どこの新聞社とはいわないけれど、野党4党首が集まって演説したことを、わざわざ中心に報道しているところもあったな。

 
 どうしてそうなる? 国会前にこれだけの人が集まったんだ。デモの主人公は国民であるのは明らかで、政治家は付け足しだ。デモにいかなかった人や、いけなかった人に、わざと政治色が強い集会だったと思わせたい厭らしい意図を感じてしまうのは、あたしだけかしら?

 ていうかさ、翌31日の菅官房長官の記者会見で、今回のデモについて、

「大きな誤解が生じていることは極めて残念だ。政府として、誤解を解く努力をしっかり行っていきたい」

 という発言があったけど、なぜそこで、

「だったら、法案の無理強いをやめるんですね?」

 という、普通の国民が抱く、普通の質問をしてくれないの? それって国民軽視じゃね?

 そういえば、今年の6月、小林節慶大名誉教授が、安保法制を「合憲」とする憲法学者たちに公開討論を呼びかけたが、その話はどうなった? たとえ無理であっても、どっち側がどういう理由でNGを出して来たのか、それを追及し発表することに、報道の意味があると思うけど。

 秘密保護法のときのように、こんなにたくさんの人が集まったデモがおこった安保のことも、メディアは後々の言い訳程度に扱う気なのか?

 どこを見て、報道してる? また戦争翼賛報道の後悔をくり返すつもり? はやく、そっち側からこっち側(国民側)においでよ。あたしたち国民は、見ていないようで、見ているよ。

週刊朝日 2015年9月18日号

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室井佑月

室井佑月

室井佑月(むろい・ゆづき)/作家。1970年、青森県生まれ。「小説新潮」誌の「読者による性の小説」に入選し作家デビュー。テレビ・コメンテーターとしても活躍。「しがみつく女」をまとめた「この国は、変われないの?」(新日本出版社)が発売中

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