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十三億分の一の男 中国皇帝を巡る人類最大の権力闘争
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 世界制覇を目指す習近平は、国内の政敵の“粛清”にも躍起になっている。その最大の標的が、1993年から2003年まで国家主席に君臨した江沢民だ。習近平の「新常態政策」に反対し、既得権益を離さない守旧派に、今も影響力を持つという。

『十三億分の一の男──中国皇帝を巡る人類最大の権力闘争』(小学館)の著者で朝日新聞記者の峯村健司氏は言う。

「胡錦濤前国家主席の10年間は、江沢民が院政をしいていて、党の内部には『党の重要事項は江氏に報告する』という内部規定があったほど。重要な人事や政策は、江沢民の同意がなければできなかった。その反省から、習近平は江沢民の院政に終止符を打つことが必要だった」

 中国では毎夏、北京郊外の避暑地に党の長老や有力者が一堂に会する「北戴河会議」という非公式会合が開かれ、重要人事や政策に大きな影響力を持つとされる。今年8月にも開催されたが、江沢民は姿を見せなかったという。中国共産党の機関紙・人民日報も「地位にいないものは、その職務を考えるべきではない」(8月10日付)と、明らかに江沢民の影響力排除を念頭に置いた異例の評論を掲載していた。

「中国の権力闘争は今、激化している。8月の北戴河会議は幹部が対立して意見がまとまらなかった」(国際政治経済学者で参議院議員の浜田和幸氏)

 今年7月には江沢民の子飼いと言われ、軍の制服組で10年間にわたってトップに君臨した郭伯雄・前中央軍事委員会副主席が無期懲役の判決を受けた。さらに、同じく江沢民に近い徐才厚・前中央軍事委員会副主席(3月に病死)も「重大な規律違反」を理由に、すでに党籍を剥奪された。

「江沢民は89歳で体調に問題もあるとされ、政治力は確実に衰えました。ただ、党内には今でも息のかかった人物が残っている。盤石に見える習近平の権力基盤も、まだ楽観視はできません」(峯村氏)

 そして反発はすでに始まっているという。中国に詳しいジャーナリストの富坂聰氏は言う。

「役人が公共事業で大きな仕事をすれば、賄賂をもらっていると疑われる。それなら、表向きは仕事をしているように見せながら、サボタージュしたほうがいい。いま、中国の官僚は『靴をキレイに保つには、歩かないほうがいい』と言っています。政府が景気対策をしても、地方の役人が動かない現象が起きている」

(本誌取材班=村田くみ、西岡千史、小泉耕平、永野原梨香)

週刊朝日 2015年9月11日号